三味線のさわりについて 三味線の音色の特徴の一つであるさわりについて。 さわりとは、弦の振動と共に発生するノイズの事です。わざとノイズを発生させるための仕掛けが、三味線には備えられてるのですね。こういう「ノイズ発生装置」を持った楽器は三味線以外にも、
シタールや琵琶のさわりを発生させる仕掛けは下駒(ブリッジ)側にあって、全ての弦・全ての音にさわりが付きますが、三味線は上駒側でさわりを作ってます。
(天神部分の拡大画像)二の糸・三の糸は金属製の上駒に乗せられてるので、棹の上面には接してません。普通の弦楽器は全ての弦を上駒に乗せるますが、三味線の場合は一の糸だけを上駒に乗せず、棹の上面に接触させることでさわりを作り出します。
さわりを発生させる仕掛けが上駒側にあるので、一の糸でも、開放弦でないならやはりさわりは鳴りません。 --------------------- 実際に、どんな音なのかを聴いて頂きましょう。
三本ある糸のうちの一本だけしかさわりが鳴らないのが三味線ですが、一の糸の開放弦を弾いた時だけしかさわりが付かないかというと、そうではなく、物体には共振という現象がありますから、一の糸以外を弾いた時にも、一の糸が共振を起こせばさわりは付きます。 共振とは; 上記の解説に沿って説明すると、この場合の「エネルギーを有する系」とは一の糸の事です。一の糸がなんでエネルギーを有してるかというと、張力を与えられてるから。 完全一度(1:1)>完全八度(2:1)>完全五度(3:2)>完全四度(4:3)>長三度(5:4)>etc. カッコ内の数字は振動数比です。本調子の場合、一の糸と二の糸の音程は完全四度ですから協和度は充分高い。しかし完全四度よりも完全八度(オクターブ)の方がより協和度は高いので、二の糸の開放弦よりも三の糸の開放弦(一の糸の1オクターブ上)を弾いた時の方が、一の糸の「固有振動数により近い刺激が与えられる」、つまりさわりがより大きな音で鳴ります。 ところで、三味線音楽で多用される調弦法は、本調子、二上り、三下り。動画での演奏例は本調子ですが、他の二つの調弦でのさわりの鳴り方はどうなるか? 本調子の一の糸と二の糸の音程が完全四度であるのに対し、二上りではこれを完全五度にします。そして、完全四度よりも完全五度の方が協和度が高いため、さわりがより大きく鳴りやすいです。 概して三味線は、さわりがたっぷり鳴る方が、派手で明るい音色に感じられるものです。そのため、本調子・二上がり・三下がりという三つの調子を比較すると、さわりが一番付きやすい二上がりが最も派手で明るく、さわりが一番付きにくい三下がりは地味で暗い感じ。本調子はその中間、という事になります。 三下りの、一の糸と三の糸の音程は短七度。では短七度の音程比はいくつかというと、これちょっと複雑な問題。なぜなら、完全四度五度はどんな音律でも純正音程あるいはその近似と見なして扱うので問題ないけど、それ以外の音程の比は音律ごとに様々なんですね。短七度だと、 1. 純正音程の短七度=9:5 など。他にもあるかも。 1. 純正=180Hz となります。こんなの誤差の範囲と思われるかもだけど、基準値の100HzをA=400Hzにするなら例えば、 2. 平均律≒784Hz となり、これは明らかに別の音。 --------------------- 三味線のさわりの音響的な効果をよく現せる例はないかと考えてみたところ、『外記猿』(げきざる)の前弾きが良さそうに思えたので、それを録音してみました。
どうでしょう?実はイマイチだったかも。 この前弾き、一の糸の開放弦を用いない代わりに二の糸の開放弦を多用していて、さわりが無くてもそれなりに響きが豊かなんですねって事に、録音してみて気が付いた。そのうちより適切な曲例を思い付いたら差し替えるかも知れません。 2008/12/25 |