木撥と象牙撥、どちらが「良い音」か?

 三味線の撥の材料は何種類かありますけど、長唄の場合は、
・稽古用のは木製
・本番用は象牙
と使い分けて、象牙の方が音が良いとされてます。けれども本当にそうなのか?一度ちゃんと確かめてみたいものだと思っております。

 というか、我々楽器をいじったりする類の人種は、音が良いとか悪いとかって簡単に言いすぎるんですよ。音の良し悪しを判断するというのは、本当はとても難しい事のはずです。

「難しく考える事はない。自分の耳で聴いて良いと感じる音が良い音にきまってるじゃないかばかめ」

などとおっしゃる御仁も多いのですが、演奏者自身が自分の出してる音の良し悪しを判断できると当然のように思ってるという事が、楽器に慣れ親しんでる人間の、その「慣れ」の怖さというか浅はかさというか、思い上がりというか、

みたいな話しはさておいて、木と象牙、この2種類の材質の違いで実際のところ、どのくらい音色が違うものかを聴き比べるための音ファイルを作製いたしました。

 一つの動画の中に「吾妻八景」の前弾きが二通り。片方は木鉢、もう片方は象牙撥で弾いてますが、どちらが木か象牙かというのは、伏せておきたいと思います。木と象牙で明らかに音色の差があるなら、それは聴いてみれば(少なくとも三味線という楽器に親しい人なら)すぐに分かるはずだから、わざわざお知らせする必要はないという事ですね。三味線本体の方は、紅木棹猫皮絹糸象牙駒のものを用いてます。

 録音に使ったレコーダーはRoland R-09という簡易なICレコーダーです。

 これで録音したWAVファイルをWebにUPするためmp3化してあります。それをおそらく皆さんは、パソコンに付属の簡易なスピーカーで再生されるわけで、つまりこれ、デジタル・オーディオとしてはかなり低品質です。なので細かな音色の違いみたいなものは曖昧になってると思っていただいて間違いありません。

mp3化する際にはパソコンのDAW上で音量レベルの最大化を行ってます(TC Electronic社のプラグイン・エフェクト"MAXIT"を使用)。しかしEQ等の、元データの音色を変えてしまうような処理は一切行っていません。

 そんな低品質なファイルで撥の材質の違いによる音色の聴き比べをしようなんてのは少しおかしいと思われるかも知れませんが、長唄というのは、

・基本的には踊りの伴奏音楽で、
・わりと大きめの会場で演奏するのが常で、
・お囃子(打楽器)や御簾(効果音)と共にあり、
・立方(踊り手)の発するノイズ(衣擦れや足拍子)も常にあり、
・客席側も、空調ノイズや見物衆の発する様々なノイズに充ちている。

要するに、つねにガサゴソとした環境下で、わりと遠くの方から聞こえてくるのが長唄の三味線なのですから、今回UPしたファイルが低品質な分は、長唄の三味線が実際に聴かれる状況での距離感におおよそ等しいと、そんな風に考えていただけたらと思います。

 三味線音楽にも色々な種類があって、「四畳半」みたいな距離感で、しかも非常に物静かな環境で演奏されるものもあります(小唄など)。そういうタイプの三味線音楽ならば、細かい音色の違いや、音色だけでなく「演奏のニュアンス」みたいな事にこだわるのも大切ですが、長唄というのはそこら辺はわりと大雑把なもので、あんまり細かい事に神経を尖らしても意味ないように思えます。

2009/05/17
(改)2017/05/02



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