チャランゴ E&L, Bolivia

ボリビア製、E&Lブランドのチャランゴ。2013年の冬に購入。
チャランゴ、Charangoとは、南米フォルクローレで用いられる10弦5コースの小型複弦楽器。
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・弦長 357mm
・全長 642mm
・重量 845g

 簡素な造りの廉価品で型番等は不明、しかも「まともには使えない不良品」という断り書きが添えられヤフオクで捨て売りされてたものです。だから安かった(たしか6k)。入手時の状態は、

・ブリッジ・サドル欠品
・表板の塗装のほぼ全面に粟粒(気泡)あり
・ペグが、いわゆる逆巻き

その他、全体的に「いかにも粗悪品」といった風情だったです。とりあえず表板塗装を研磨し直し、サドルを自作し、弦を張り、1年ほど放置しました。南米産の楽器を日本に持ち込むと、夏の暑さと湿気でブリッジが剥がれる場合があるらしいので様子見したのです。結果、その点は大丈夫なのが確認できたのでペグの逆巻きを修正し、それでようやく実用可能な状態になりました。

 とはいえ、私がチャランゴを実際に演奏する、あるいは宅録に用いる事は、ほとんど無いような気がします。これを購入した動機は「壁に掛けて飾るのに手頃な、小型のマスコット楽器が欲しかっただけ」に近い。とはいえ、「壁飾り」であってもそれが楽器である以上、全く使えないのは(あるいは自分が弾けないのは)気分良くないですから、使えるようになってくれて良かったです。

 2013年の夏に、フォルクローレ風にアレンジした中島みゆき「ひとり上手」というのを宅録したのだけど、その時はまだチャランゴを持ってなかったから、マンドリンでコードを掻き鳴らしてみた。その結果、(まあ当たり前の事ですが)マンドリンはチャランゴの代用品にはならないという事がよおく分かり、だったらチャランゴ、買えるものなら買ってみようかと考え始めた。
 しかし、現在の日本でのチャランゴの価格は、まともな状態の新品は最低でも3万円台。そして中古はほとんど出回ってない。実用品というよりは「壁飾り」にするつもりの楽器のために、万の単位のお金は使えません。ですがヤフオク等を物色すること数ヶ月で、運良く激安品を見つけられたわけです。

 小型のマスコット的楽器として、私は既にマンドリンレキント・ギターサイレント・バイオリンを持ってます。だから似たようなものを更に買い足す必要は無いのだけど、マスコットなだけにどんどん増やしたくなるのでもあります。フィギア系の玩具を買い集めるのと同じ購買行動ですね。

 それに、まずマンドリンは、楽器としての実用性・機能性が高く、見た目は均整が取れていて美しい。しかし美しいだけでは、マスコットとしてはイマイチなのだ。
・では、単なる美しさではないマスコットらしさとは何なのか?
・それは、(ちょっと前の流行り言葉で言い換えるなら)「萌え」である。
そして「萌え」とは、美しい均整ではなく、未熟な要素を残した不完全さ、均整が崩れたアンバランスさからこそ生じるものなのではなかろうか?

 ヤマハのサイレント・バイオリン,SV-100は機能性オンリーのガイコツで、萌え属性などビタイチもありゃしません。むしろこれは銃器とかラジコン系の玩具に分類されるべきものかと思います。

 レキント・ギターは普通のギターをそのまま縮小したような楽器で、とても可愛い。ただ、レキントのボディの厚さは普通のギターとほぼ同じなせいか、横から見ると少々「堅苦しい」感じがする。だからこれも、マスコット楽器としては微妙にイマイチなのだ。

 そこにいくとチャランゴは、
・ボディのサイズはウクレレとほぼ同じ。実用性のある弦楽器としては最小の部類である。
・しかもボディ裏面はラウンド(お椀型)なので、体積でいうとウクレレより更に小さい。
・ところがチャランゴのネック幅は普通のギターとほぼ同じで、小さなボディに対して幅広すぎる
・そしてヘッドは、10弦分のペグが取り付けられてるため、普通のギターより大きい

つまりチャランゴは、ヘッドとネック=頭と首が、ボディに対して大きすぎる、非常にアンバランスな外観の楽器なのである。だがそれがいい。マンガの低等身キャラ、豆キャラみたいなものなわけですよ。弦が多く見た目がゴチャゴチャしてるのも、装備を盛ったフィギアのようで(実用性はともかく)装飾品としては好ましい。ボディの象嵌が多めなのも、この楽器にはよく似合う。

結論;
マスコット楽器としては、チャランゴ最強
チャランゴこそが、マスコット楽器の決定版

 ちなみに、現在の日本で一番普及してるマスコット楽器はウクレレだと思うのですが、私はウクレレの音にも見た目にも惹かれるものがなく、ハワイアン音楽にも興味が無く、だからウクレレが欲しいとも思わないです。
 スチール・ギターは別名ハワイアン・ギターともいい、これも(とくにショート・スケール型のは)マスコット楽器的であるし、ハワイアン以外の使い道があるから、私は所有してる。ウクレレだってハワイアン以外に使ったてオーケーなもので、近年は実際にそういう使われ方もされてるけど(懐メロ・ロックをウクレレで弾いたりとか)、しかし私にとってそういうのは、ノベルティ音楽のようにしか感じられない。いや、ノベルティだからこそウクレレはオモチャ楽器の王道なのでもあるけど、いかんせんウクレレは楽器としての機能が弱すぎる。私は以前、カマカの高級品を弾かせてもらった事があって、音色はとても良いと思いました。
「こんな小さな木の箱から、どうしてこれほど美しい音色が生まれるのだろうか!」
と驚いてしまうほど、それは良い音でした。けれどその美しさは、自分にとっては不必要で使い道のないものですねえ今のところ。


 チャランゴのボディ材がアルマジロだったのは昔の話しで、現在は木製のボディが主流です(アルマジロ製が完全に無くなったのでもないようですが)。
 私のは赤味のある、日本でいうと花梨に相当するような、やや重く、やや硬い木材が用いられてます。ネックとボディは別材の継ぎ合わせではなく、1本の材から削り出されたものです。

 小さなボディに対してヘッドが大きすぎるため、重量バランスはとても悪いです。普通のギターの重心位置は指板エンド付近か、更にそれよりボディ・エンド側にありますが、私のチャランゴの重心は6フレット付近にあります。重量は約850gで、ちょうど良い重さなのに、ヘッド側が重すぎて持ちにくい。更に、ラウンド・ボディなためツルツル滑りやすく、なおさら持ちにくい。つまりチャランゴはストラップ必須の楽器です。というか以上の問題はストラップを付けさえすれば解決する事なのですが、私はこの楽器にギター用のエンドピンは付けたくないと思ってる。なんとなく似合わないような気がしますので。
 壁飾りにするだけなら、ストラップを付ける必要はない。しかし少しでも弾くつもりがあるなら、ストラップは必要。どうしたものか現在検討中。

 ボディ材が異なると音色も違うのか?フォルクローレ愛好家の定説では、アルマジロ製と木製とでは、音が違うとされてるようです。私はアルマジロ製のを実際に弾いた事がないので確言できませんが、私が好んで聴くのは録音時期が古い年代の、つまりほぼ全てのチャランゴがアルマジロ製だった頃のフォルクローレ、あるいはワイノで、それらの音盤から聴こえてくるチャランゴの音と、私の木製のとを比べると、木製の方が、欧米基準での、あるいは現在のポップスの基準での「いわゆる良い音、しっかり鳴る音」がすると感じられます。と同時に、キンキン耳に痛い音だとも感じる。私はやはり、古い時代の、鄙びて乾いた、腰が弱く少々頼りなげな音、それを精一杯かき鳴らしてる、そういう音のチャランゴの方が良いと思ってしまう。
 とはいえ、アルマジロ製のを入手してみようなどという考えは一切ありません。そんなお金はないのはもちろん、壁掛けとしては、アルマジロ製はちょっと気色が悪くてイヤですので。

ちなみに私は三味線も弾きます。当然、それを所有してます。皆様ご存知の通り、三味線には犬あるいは猫の皮が張られてます。三味線の製造業者は、この素材をどこから、どのようにして入手してるかを公表したがりませんし、消費量(年間で何頭分の皮が楽器になってるか等)も不明です。
 私が三味線の稽古に熱心に通ってた頃は、三味線という楽器の、そういうあり方を疑問に思う事はありませんでした(あるいは、この問題から目を背け、あるいは遊芸音曲に使う道楽道具であろうと、”伝統を守るため”なら畜類を殺生してかまわないと思い込もうとしてた)。ですがその後、稽古に通うのを止めて、頭を冷やして考え直してみれば、現在の日本で、食用家畜等でもない動物に由来する素材を楽器に用いるなんて、しかもペットの代表種である犬猫の皮を使うなんて常識外れもいいとこの、ありえない話しですよねえやっぱり。だいたい、犬猫の死骸を木の枠に貼り付けた道具なんて、気色悪くて触るのもイヤじゃないですかぁという風に感覚が変化しましたというか、まあわりと普通の日本人と同じ感覚に戻りました。

 そのような私ですから、アルマジロ製チャランゴなんてのも当然お断りです。しかし音色は、たぶんアルマジロ製の方が好ましい。ですので、木製チャランゴをアルマジロの音に近づけられないものかと考えてしまう。今のところ思い付ける案は、
・ボディ内部に吸音材を貼って反響を抑える。
・ダウン・チューニングしてみる
の2点。


 この楽器の表板が単板か合板かは不明です(サウンドホールの縁[へり、木口]にも黒いバインディングが巻かれてるため、材の断面を目視できない)。でもたぶん単板(のような気がする)。ウクレレ程度の小さな楽器なのに、3枚継ぎされてます。

 先述した通り、入手した時点では塗装面の状態が悪く、ラッカーを一度に多量に吹き付け過ぎた時に生じるような気泡が、表板のほぼ全面にありましたので、それは研磨して消しました。ピックガードのセルロイド板の加工も、形状・貼り付け方ともに杜撰なものです。それとペグの状態も悪かった。

 とまあ色々アレな点が多々あるからこそ6千円で買えたのだけど、これと大差ない品質のものでも2万3万という値段で売られてそうな気がしてコワい(エスニック民芸品の輸出入業者には色々アレな面がありそうですので)。そう考えると、最初から「ジャンクです」と明言してるのを買えたのはむしろラッキーだったのかなとも思えてきます。

 サウンドホールの装飾(ロゼッタ)とボディ周囲のバインディングは、中世スペインの弦楽器に用いられてたものに似ています。それはスペイン風というより、北アフリカ系イスラムの意匠に基づくデザインで、スペインが南米大陸に進出を始めた15世紀末は、イスラム勢力のイベリア半島からの駆逐(レコンキスタ)が完了した直後であり、イスラム文化の影響は濃く残っていた。楽器もイスラム風に装飾されていた。それが南米に持ち込まれ、それがいまだに、インディオが用いる民族楽器に受け継がれてる(のではなかろうか)。
 チャランゴのボディがラウンド・バックなのも、アルマジロを用いたからこの形になったのではなく、リュートやバロック・ギター等の中世弦楽器はラウンド・バックのものが多い。それらを参照してチャランゴは作られたからラウンド・バックになった。そしていつの頃からか、木材をお椀型に成形する変わりにアルマジロを用いるようになった、という事だったのかも知れません。

 チャランゴのボディ・シェイプは、8の字のクビレが浅く、ブリッジ位置がボディ・エンドに近い。それも、(現代のギターをそのまま縮小したというよりは)中世の弦楽器の方に近い特徴です。それで、私は中世の弦楽器も大好きですから、チャランゴに対する「マスコット楽器としての好感度」もなおさら高まるのであります。


 入手した時点ではブリッジ・サドルは欠品だったので、グラフテックのTUSQを用いて自作しました。

 南米の高地と日本とでは気候がかなり異なり、向こうでは問題なく使える接着剤でも、日本ではダメだったりする。10本の弦の張力は合計30kg(らしい)。それを支えるブリッジは表板に接着剤で貼り付けてあるだけだから、日本の気候に合わない接着剤が用いられてると、梅雨〜夏の頃に剥がれてしまう。南米のメーカーはけっこう以前から日本の気候でも大丈夫な接着剤を用いるようになったらしいのだけど、今でも稀に、夏になるとブリッジが剥がれてしまう場合があるらしい。私のは、とりあえず2014年の夏は大丈夫でした。
 表板は若干変形してます(サウンドホールとブリッジの間が凹ってる)。


 先述した通り、これを入手した時点でのペグは逆巻き状態でした。なおかつ、ペグ・ユニットの取り付け精度が低いため、スムーズに回転しない個所も多々ありました。

ちなみにペグの「逆巻き」とは;
普通のギター……スロテッド・ヘッドのナイロン弦ギターで、音程を「上げる」には、ヘッド裏面から見て反時計回りにペグを回す。「逆巻き」とは、それが反対になってるという事です。

 チャランゴの調弦法は以下の通り。ギターに慣れてる者にとっては少々ややこしい。しかも複弦で左右に5つずつの10個のペグだから、どのペグをどう回すか、けっこう戸惑います。

 更に、チャランゴはナイロン弦だからチューニングは不安定で、ペグ操作を頻繁に行う必要がある。それが逆巻きで、しかも硬くて回しづらい個所が多数あるのは極めて不快な事ですが、少なくとも逆巻きに関しては、それがチャランゴ本来の仕様なら、そのままで使うべきかなとも思うわけです。


 しかしよく考えてみたら、フォルクローレでは普通のギターも用いるのだから、ギターとチャランゴとでペグを巻く方向が逆なわけはない。となると私の所有機は、ペグ・ユニットが左右逆に取り付けられてしまってるのだ……という事に気付くのに1年かかったわけですけど、それにしても、なんでそんな状態で出荷されてしまったのか?その理由は、これを直す作業をしてみたら分かりました;
木部の加工精度が低く、ペグのポストを通すための穴の位置が1〜2mmずれている。そのためペグ・ユニットの左右を正しく取り付けられなかったらしいのです。

・入手した時点では、左右のユニットが逆に取り付けられていた。
・その状態では、スムーズに回らない個所が多数あった。
・スムーズに回らない理由は、ポスト穴の位置が不正確だったから。
・だから高音側には無理やり押し込むようにして取り付けられてた。そのためベースプレートが少し湾曲してた。
・低音側ユニットを本来の位置に付け直したら、キッチリはまるし、回転もスムーズになった。
・しかし高音側ユニットは、ポスト穴の位置のズレが大きすぎて装着すら出来ない。

 これつまり、ペグ・ユニット自体の寸法が左右で微妙に異なってるという事でもあるのだけど、ともかくつまりは、
「高音側のポスト穴の位置がズレちゃった。でもペグ・ユニットの左右を入れ替えたら、かろうじて装着できちゃった。なのでそのまま売っちゃった。」
という事だったみたいです。ひどい話しですけど、私はテスコ類の扱いに慣れてしまったせいで、こういうアレにも「さもありなん」としか思えない自分がちょっと悲しい。高音側ポスト穴の位置を修正すれば良いだけの話しである。正規の工程は「一旦ポスト穴を埋木し、再度開け直し」ですが、そんな手間を掛けるわけもなく、具合の悪い個所を丸棒ヤスリで拡張しただけでピッタリ収まり、回転もスムーズに。それでようやく、この楽器をストレスなく使えるようになりました。


 入手時、ボディ内部には↑このラベルが貼られてました。しかし入手後すぐに剥落しました。キチンと貼られてなかったのですね。何から何まで杜撰な製品だったです。ともかくこのラベルが貼られてたのだから、このチャランゴはE&Lのものであろうと思ってますけど、本当にそうなのかは疑わしいとも感じてます。
 というのは、このラベルにはボリビアの楽器コンテストか何かでの受賞歴が多数あるみたいな事がプリントされてるのだけど、それにしてはヒドい代物(しろもの)だったわけで、だからもしかすると、無銘ブランドの粗悪品にE&Lのラベルを貼り付けた偽装品の可能性もあるわけですよ。ラベルがキチンと貼られてなかっただけに、尚更そう思われてしまう。

 私がこの楽器を購入した相手はアマチュアのフォルクローレ愛好家とかではなく、中南米の楽器/民芸品の輸入販売を行ってる業者でした。いや、業者といってもそれは、フォルクローレ好きのアマチュアが(本業とは別の)サイド・ビジネスとして営んでるような”業者”だったのかも知れませんが(そして、そういう感じの業者は日本に複数あるようにも思われるのだけど)、ともかく”業者”の看板を出してる以上、こっちは業者なんだなと思うわけです。そして、中南米からの輸入品には、業者が扱ってる物の中にも、今回のようなイカガワシイのも混ざってる。そのため先述したように「ジャンクと大差ない品質のものでも数万円で売ってそう」とも思われてくる次第です。「テスコなら、さもありなん」で済ませられるのは、それは何十年も前の事だから。21世紀現在の日本で、いまだにこういう粗悪品が流通してるのはちょっとどうかと思う。今回のは6千円だったからラッキーで、しかしもうこれ以上、中南米関連の”業者”と関わりたくはありませんねえ。

2014/11/28


■弦交換の記録

 銘柄コメント等
2013冬〜


TEMP0
BLACK NYLON

チャランゴ用の激安弦。現在はまだ調整中につき、取りあえずの仮張り用です。
"industria Argentina"とプリントされてるから、たぶんアルゼンチンの製品。2セット分、つまり10×2=20本入り1パックで、たしか¥700くらいだった。
2セット分……なんだけど実は、1本の長さが通常の2倍の長い弦が10本入ってる。それを半分に切って用いるというDIYな仕様。チャランゴは全弦プレーンでボールエンド等もない。だからこそ可能な販売方法ですね。

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