加納木魂 #30(1983年)

 日本製のクラシック・ギターです。製造されたのは1983年で、私が購入したのは83年の秋。出来たてを買ったワン・オーナー品です。加納木魂(Kanou,Kodama)というのは製作者のお名前で、いささか物々しい感じもいたしますけど、楽器自体はいたって普通のクラギです。

 総単板で、当時の定価は30万円。弦長は650mm。ボディ幅(最大個所)は36.3cm。ボディ厚は9.8cm(ネックの付け根)〜10.3cm(ボディ・エンド)。
 故障歴や修理/改造した個所などはありません。2011年現在で製造時から30年近く経ってますが、それほど頻繁に弾かないせいもあり、とくに不具合もなく使用出来てます。指板が少し痩せてフレット端が飛び出してきたので修理に出したいんですけど、演奏自体にはそれほど差し支えないので現状は放置。


 弦長650mmというのは20世紀型クラシック・ギターとして標準的な仕様ですが、まさに前世紀の遺物といいますか、(音楽ジャンルとしての)クラシック・ギターの市場規模が縮小してしまった現在では、千人以上が入る大ホールで(電気拡声なしで)使用する事を目的として大型化したクラシック・ギターなどは無用の長物。昨今のクラシック・ギターは、これが私的な集会=サロンのための楽器であった頃の仕様、即ち19世紀型への回帰指向が強まりつつあるように思われます。

*)19世紀型ギターの標準的な弦長は630mm。

 また、アマチュア演奏家の高齢化も進んでるため、楽器店の方でも大型の楽器はキツいだろうというような理由を付けて、小型のものを推す傾向があるのでは?しかし私は、

・クラシック・ギターの曲を本式に・ちゃんと弾けなくてもかまわない。
・弦長が多少短くなったくらいで劇的に弾きやすくなるとも思えない。
・なによりも、この加納木魂#30と同程度の楽器をもう1本買うお金がない。

という理由から、今後もこの650mmのギターを使い続けるつもり。それに30年近く使い続けてきて言うのも今さらなんですが、私はいまだに、このギターを最良の状態で鳴らせた事がない--このギター本来の音色を引き出せてない--と思うのですね。総単板のギターは、上手な人のためのものだと思う。つまり私には分不相応なものだ。あるいは、加納木魂のギターは鳴らすのが難しいのかも。

 総単板のクラシック・ギターはこの加納木魂#30しか弾いた事がない私ですから、他の製品と比べてどうかは分かりませんけど、これを買った時に店員さんが、
「このギターは鳴らすのが難しいよ」
というような事を言ってました。それがどういう意味なのか当時はよく分からなかったし、今でも分かってない(上手く鳴らせてないという事は分かってないという事だ)。しかし少なくとも、総単板のギターにはそれ用の弾き方があって、合板ものと同じ扱いではいけないという事に最近になってようやく気付きました
 楽器を鳴らそうと圧力を掛ける(無理強いをする)のではなく、「楽器が貯えてるものを開放する感じ」で弾くとでも言いますか。奏者は、楽器が鳴りたがってる方向に進むのを手助けする程度に弾くので良いんじゃないかって思い始めたのが2010年。思ってるだけではそのように弾けないのが芸事の常で、だからこのギターは上手な人のための道具なんだと思うよホント。

 これがエレキだったら、さっさと自分に合うものに乗り換えてしまうんでしょうけど、生ギターは演奏技術の基礎となるものだし、30年使ってもまともに弾けてないのは口惜しいしで、だからもうちょっと頑張ってみようかなと思う次第。

2010/10/31


■弦交換の記録
私的に、クラシック用ナイロン弦は伸びきってナンボのものと思ってるので、滅多に張り替えません。3年に1回ペースくらいで良いんじゃないかな?

 銘柄コメント等
〜2011/01ブラックナイロン

チップ・エンド付きのブラックナイロン。銘柄不明(忘れた)だけど、たぶんラベラ。中学の時通っていたギター教室の置き楽器に張られてたのがブラックナイロンで、だからなのか、なんか好きですブラックナイロン。
加納木魂との相性で言うと、アタック強めで音が固い。下手がバレやすい。自宅使用には不向きかも。


2011/02〜
SAVAREZ
NEW CRISTAL
570 NR

低音弦(巻弦)がやや細め、というのが売りのセット。
2016年10月に4弦が切れたので丸ごと別製品に交換。5年以上張り続けた事になります。ナイロン弦は伸びきってからが勝負!とは思ってるけど、さすがに5年はいかがなものだったかな。ただ、私が加納ギターを弾く頻度はもともと低めなうえ、2015年の春以降は新しい趣味(シンセ自作)を始め、加納に限らずギター類は全く弾かなかった、という時期が1年半くらいあったから、それを除くとこの弦を使用した期間は4年弱。もっと頻繁に弾いてたら3年目くらいには切れてたのかも。
2016年の秋口に久しぶりに弾いてみたところ、つまりこの弦が完全に死にきった状態での印象ですけど、けっこう良い音だと思いました。自分、加納#30の上手い鳴らし方を見つけつつあるのかも知れない。なら久しぶりに録音してみようかと思った矢先、ある朝起きてみたら4弦が切れてました。
じゃあすぐに同じセットを買い直せば良さそうなものだけど、この弦の新品時の音は5年目になってからのとはかなり違う(ような記憶がある。まあそれ当然ですが)。それにせっかくだからいろいろ試したい。なのでサバレスとはかなり性質が違いそうなラミレスに替えてみました。
その結果、とはつまりラミレスを張った直後の印象では、やはりサバレスは加納に合ってたように思われます。


2016/11〜
Jose Ramirez
Medium Tension

2016年10月、サバレスの4弦が切れたので交換。切れたのは10月だけど、通販で他にも色々まとめ買いする都合で、交換したのは11月も下旬になってから。
サウンドハウスが取り扱ってる製品の中で価格が¥1000台前半くらいまでのもの、という範囲で選ぶから案外選択肢は多くないのだけど、ともかくその中でサバレスNEW CRISTALとはなるたけ性質が違いそうなのを選んでみた結果がラミレス。にしても「たかが弦」です。肝心なのは楽器本体だから、弦を替えても大した違いは無かろうと予測。ところがビックリ。ラミレス弦はサバレスとはかなり違います。
・左で押さえる/右で弾く、その両方とも感触/反応が、なんかゴムっぽい。
・巻弦はベース(バス)として機能させやすそうな音。
・プレーン弦はビブラートを掛けやすい。
加納ギターに合う合わないは別にして、ラミレス弦の上記の特徴は良いと思う。弾くのが楽しくなる弦。ただ、ラミレスの弦はラミレス製ギターの特徴に最適化されてるに違いない。しかし加納はラミレスとはかなり性質が異なるギターだと思う。てまあ私はラミレスを弾いた事はないですけど、加納ギターの特徴を大まかに言うと、音が硬めで分離が良い系。大まかに、というかこれだけはそう言ってまず間違いなかろうと思える点。情緒的に表現するなら、澄んだ音とか繊細な音とか。
ラミレス弦はゴムっぽい、というのは立ち上がりが遅めで倍音は少な目。だから丸くて柔らかな音。リバーブ感が少ない。コードは団子になるので、とくに低音域での近接音程は響きが良くない。これじゃ加納ギターの良さは活かせない。
なんだけど、私にとっての「ナイロン弦らしさ」のイメージに近いのはラミレス弦の音なのでもあるのですね。それにまた、鉄弦もエレキも弾く私ですから、べつにわざわざナイロン弦のロー・ポジションで団子コードを鳴らす必要はない。ウィークポイントは避けて通ればいいだけのこと。
だったらナイロンらしい音だなと思わせてくれるラミレスはやはり良い弦だ、という事になるのかも。手触りが柔らかいから、録音だの練習だのではなく、暇つぶしにポロポロ弾きたい時にこそ良い弦なのかも。
なんだけど更にまた一方、録音でも練習でもなくギターを弾くのって「フレーズを探してる時」である事が多い。作曲する、という程じゃなくてもその前段階の、フレーズ断片をいろいろなにしてみたり、あるいはアレンジのアイディアを試してみたりメロディ・フェイクの工夫をしたり。そういう時に使いたいのは「フレーズを与えてくれる楽器」。その場合、倍音が少な目で柔らかい音、言い換えると地味で沈んだ音色のギターは、どうであろうか?やはりそういう時はサバレスのような、じゃなくてもともかく明るくて済んだ音色の、リバーブ感が多めの音の方が良いのではないか?いや、柔らかい音の弦を使えばその音なりのフレーズが出てきて、それはそれで良いのかも知れない云々云々
つまりまあ、まだ張ったばかりなのでよく分からないわけです。それでどうせまた何年も張りっぱなしにしますから、速断する必要もないです。
なお、この弦のリバーブ感が少な目なのは、残響多めの会場で用いる前提で設計されてるからかも知れません。


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