Kasuga L-10 春日レキント・ギター L10号

春日のレキント・ギター、L10号。2013年の春に購入しました@ヤフオク。 オール合板の廉価仕様な製品です。

レキント・ギター(Requinto)とは;
 トリオ・ロス・パンチョスのアルフレード・ヒルが開発した(とされる)小型のナイロン弦ギター。中南米にはギターの親戚的な小型弦楽器が何種類もあって、だからレキント・ギターはけしてA.ヒル氏の独創による新種楽器ではないのだろうけど、似たようなものが多種ある中で、最も近代的で、民族音楽以外にも応用しやすく、しかも日本のギター・メーカーが製造してた事があったため、日本製品質の中古品が入手しやすいのがレキント・ギター。そして、ロス・パンチョスとA.ヒル氏の功績なしにこのような状況は生じ得なかったのだから、(史実としてではなく名誉称号として)やはりA.ヒル氏は「レキント・ギターの開発者」と呼ばれるに値する人物なのだと思います。それに何より、彼の演奏は素晴らしい。

 レキント・ギターの弦長は545mmで、普通のギター(650mm)よりも約10cm、フレット3つ分短いです。チューニングは、低音側から、
B-E-A-D-F#-B
つまり普通のギターの7カポ相当型と、
A-D-G-B-E-A
つまり普通のギターの6弦を外して、HI-Aを付け足した状態にする方式と、
A-D-G-C-E-A
つまり普通のギターの5カポ相当にする方式など色々あるようです。私は5カポ型で、4度上げ移調楽器扱いにしてます。

 普通のギターとレキントとで、弦の長さは10cm違うだけですが、楽器全体が概ねこの65:55の比率で縮小されてるなら、体積は55/65の3乗だから約60%。それは普通のギターと比べ、かなり小さいと言えるのではなかろうか。

*)ちなみに、弦楽器の弦の長さと楽器全体の大きさとの関係はこのようなものであって(弦長を概ね5/6に縮めただけで、体積は半分近くになってしまう)、だから例えば
「E.ベースのロング・スケールとミディアム・スケールとの差は約5cmしかないから、それはたいした違いではない」
といったような事を説く人もいるのだけど、弦長が5cm違えば楽器全体の大きさはかなり違うのである。だから持った時の感覚や、弦を弾いた時にボディが共振する度合なども、ロングとミディアムとではかなり違う。だから、弦の長さが何cmなどという一面的な数値だけで楽器について云々するのは間違いの元で、こういうのはつまり、宅録マニアの波形比較とか、測定好きなオーディオマニアが弾き出してみせる数値とか、音楽理論の解説をしたがる人の説く協和音程とかでも似たようなアレがナニされがちな机上論のお仲間でございますから、うっかり釣られないよう注意しましょう。

 ただ、E.ベースのボディはもともとが薄い物なので、弦長の差がレシオ3乗分ほどの違いにはならない事の方が多いのでした実際のところ。そしてレキント・ギターは、少なくとも私の所有してる春日L10号のボディ厚は95mmで、普通のギターと大差ない。だから春日L10号の体積も、普通のギターの60%しかないわけではないです。

 春日L10号は、正面から見ると普通のギターをそのまま縮小コピーしたようなものだけど、側面から見ると妙にボディが厚い、ちょっと独特なでぶちんっぽいプロポーションをしてる。そしてそれは春日L-10だけでなく他のレキント・ギターの画像をいろいろ見ても概ね共通のようだから、たぶんレキント・ギターとはそういうものなのでしょう。
 一方、レキント・ギターではないAria PEPEシリーズのような「子供用ギター」や、近頃わりとよく見かける小型トラベル・ギターの類のボディ厚は、たいていは薄い(弦長に応じた比率で縮小されてる)。だからつまり、
「弦長が短いわりに、ボディは厚い(普通のギターと大差ない)のがレキント・ギターの特徴の一つ」
と言って間違いはなかろうと思う。いや、なんでこの件に着目してるかというと、

・私は春日L-10号という オール合板のレキントを3万円で買いました@ヤフオク。
・一方、PEPEシリーズのPS-53は弦長530mmでレキントと概ね同じなのだけど、表板は合板ではなく単板。少しだけ高級仕様。
・なのに実売価格は3万円台前半で、 オール合板の春日と大差ない。

という事を私は、春日を入手した後に知ったから、ちょっとこれマズったかと思うわけですよ。しかしよく調べてみると、PEPEのボディは薄いから、これはけしてレキントの代用品にはならない、全く別種の楽器なのだ。だから、春日L-10を買った私の判断は間違ってないのだと、そう自分を納得させる必要があるっていう。

(それとレキントの中古は稀少だから、基本、割高なものなのではあります。)

 なお、新堀ギタオケで用いられる各種珍味楽器の一つにアルト・ギターというのがございまして、これの弦長は540mm前後。ボディ厚は普通のギターと同じ。だからアルト・ギターも、レキントの代用品候補の一つなのではあります。

 しかし、アルト・ギターのネック幅は普通のギターと同じ。レキントのネック幅は、ナット位置で49.5mm。普通のギターは52mm前後。だからレキントのネック周りはかなり細身。この点でアルト・ギターとレキントはかなり別物ですから、つまりアルト・ギターもレキントの代用品にはなりません。

 いや実は、私は1990年代の頃にごく短期間、アルト・ギターを所有してたのです。つまりその頃からこのテの小型ギターには興味があって、それでうっかりアルト・ギターを買ってしまったのだけど、これは大失敗でしたね。悪印象しか残ってない。だからアルト・ギターはもうコリゴリなのだけど、嗚呼それでこれもついでに書いておくが私は新堀ギタオケのバス・ギターというのもやはりごく短期間所有してた事がある。普通のギターの4度下げチューニングにするやつですね。なんせ私は弦楽器類は何でも好きなのだ。しかしバス・ギターも、入手後ほぼ速攻で手放しました。愚かなものです。とまあそんなこんなも今は昔の物語で、春日製レキント・ギターを手に入れた現在は大満足。だからレキントの代用品は何かなどという悩みも全て過去のものですが、以上の経緯は他の誰かの参考になるかも知れないので、一応ここにこうして書き置きする次第。

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 写真で「大きさ」を説明するためには比較する対象が必要。そこで普通のギター、加納木魂と並べて撮影してみました。レキント・ギターを入手した理由は、いちおう建前的には「ロス・パンチョス・スタイルの曲を弾くため」等々ですけど、小型のマスコット的楽器が欲しいという気持ちも大きかったです。

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 サドルはグラフテックのTUSQに交換しました(オリジナルは廉価ギターにありがちなプラスチック材)。
 ところで、このブリッジ部でのE to Eは61mmです(レキント・ギターなのでA to A等と表記すべきかもですが)。一方、加納木魂のE to Eは57mm。レキントの方が幅広いです。ナット幅は先述の通り、レキント=49.5mm、加納=52mm。
 私は、ナイロン弦ギターのブリッジ幅の標準サイズが何mmなのかを知りませんが、加納ギターは小型な方なのかな?ともかく一つ言える事は、フィンガー・ピッキングで弾くための楽器なら弦幅は60mm前後が最適なのだから、レキントも普通のギターも、ブリッジ幅は概ね共通だという事ですね。


 ペグはたぶんオリジナルではなく、わりと近年の製品が付いてます。私が入手した時点で既にこれに交換されてました。

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「春日」という楽器メーカーについても軽く紹介しておきます。

昭和9年に設立。鈴木バイオリン社から移ってきた職人がギターとマンドリンを製造した。
創業者は、後に民社党のコワモテ衆議院議員として有名になる春日一幸氏(当時は貿易商)。
自社ブランドの製造販売の他に、他社のOEM生産も多かった。OEM相手は国内大手の他、海外メーカーもあったとか。
1960年代以降はエレキも製造。
1996年に操業停止。
春日楽器製品に冠されたブランドは春日の他に、
The Kasuga(フラット・マンドリンやバンジョー等のフォーク系鉄弦楽器、またスルーネック・エレキのスコーピオン・シリーズなど)
Gansonheerby(フェンギブ・コピー)
K.Country(フォーク・ギター専門のブランドだと思う)

春日レキント・ギター L10号は、ラベルに1968と記されてますので、おそらく1968年製。

 昭和の頃の日本の弦楽器メーカーは、ギターやバイオリン類だけではなく、レキントでもバンジョーでもオートハープでも、あるいは古楽器のリュートとかでも、とにかく欧米の弦楽器は何でも作る体制だったです(あまりにもマイナーな楽器は除外されますが)。
 アメリカのカントリー・ミュージックでしか使われないフラット・マンドリンとか5弦バンジョーなんて、日本国内での需要はほとんど無いと思うのだけど、それでも1970年代の終わり頃まではカントリー楽器専門のブランドがあり、それ専門の立派なカタログも用意されてました。カントリー楽器というのは見た目は豪華だし、もの珍しいものだし、だからカタログ蒐集趣味の対象としては美味しいアイテムだったりもしたけど、実際に買う人は滅多にいなかったのではないかと思う。

 アメリカでのカントリーの人気のピークは1950年頃だったとされる。
(ポップス歌手のパティ・ペイジがカントリー曲の「テネシー・ワルツ」を取り上げて大ヒットさせたのが1950年。カントリーの曲が、カントリーというジャンルの壁を超えてポップス一般として人気を得た、その頃がカントリー人気のピークだという話し。)
 日本での1950年はどうだったかというと、その頃は進駐軍がいて、日本のバンド・マンにとっては「キャンプまわり」で米軍兵士相手に演奏するのが重要な仕事だった。その時期にカントリーは大人気だったわけで、だから日本のバンド・マンにとってカントリーは重要なジャンルだったけど、普通の日本人にとってはその頃も、そしてその後も、カントリーがとくに好まれたという事はなく、従ってカントリー専用楽器の一般的な需要もほとんど無かったに違いない。
 しかしそれにしては、日本のメーカーのカントリー楽器の品揃えは充実してる。これは不思議だ。いったい誰に売るつもりだったのか?ところが春日のようなメーカーは海外向けのOEMもしてたという、それを知ってちょっと納得。つまり日本のメーカーが作るカントリー楽器は、基本的には輸出するためのものなのだ。しかしそれらを常に一定量生産してるのだから、じゃあ一応ついでに日本国内向けにも販路を開いておきましょうかね程度の心づもりで、70年代の頃までは国内向けパンフレットなども多数取り揃えられてた、のではなかろうか?

 とまあ以上は全て推測ですけど、ではレキント・ギターはどうなのか?
ロス・パンチョスが結成されたのは1944年。40年代中に既にヒット曲多数あり(ディスコグラフィーの詳細はちょっと不明)。
日本への初来日は1959年。以後、少なくとも10年間は高い人気を維持し続けた。
1967年、"鶴岡雅義と東京ロマンチカ"のデビューシングル「小樽のひとよ」が発売され、翌68年に大ヒット(東京ロマンチカは鶴岡雅義氏がレキント・ギターを弾くのがトレード・マークのムード歌謡グループ)。

 私の春日L-10号は1968年製だから、これは日本でのレキント人気が一番高かった頃の物だという事になるかも知れません。春日はレキントもOEMしてたのか?それは不明ですが、もしも50〜60年代の海外ブランド製レキントの中に日本のが混ざってるとしたら、それちょっとビミョー。一方、こういうマイナー楽器を日本で入手しようとした場合、21世紀現在でもそこそこ高品質な中古を見つけやすい。それは日本の楽器メーカーが欧米の下請工場役だったおかげかも知れない。となると、下請役が良かったなどという事はないのだけど、それでも私のような「弦楽器なら何でも好き」な立場からすれば、これはこれで有難い事だと認めざるを得ない、ちょっと複雑な気持ちです。

2014/05/07


■弦交換の記録

 銘柄コメント等
2013/10〜D'Addario J94
022-036
入手直後、まず最初に張ってみたのはLaBella RQ80。ゲージは028-041。

しかしこの弦はテンションが強すぎ、A-Aチューニングにするとボディ表板がハラミ変形する。半年ほど様子見したけど改善せずなのでダダリオJ94に交換。J94ならそういう不具合は生じない。テンションが緩すぎるという事もないし、音色も充分レキントらしい。

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