SENNHEISER MD441U

 SENNHEISER MD441Uはダイナミック型、指向性はスーパー・カーディオイドのマイク。定価は13万円くらい。ダイナミック型としては桁外れに高額な製品です。しかしこれ、ヤフオク等ではわりと頻繁に売りに出るんですね。日本国内にはけっこうな数が流通してるようで、だから日本人ってのはホントお金持ちだと思いますよ。MD441は普通の意味での、いわゆる「音の良い」マイクではないですから、

・いったい誰が?
・何を欲して?

こんな趣味な道具を買うのであろうか?謎です。しかし、当ブログ管理人の経済力ではMD441の新品なんてとうてい買えませんけど、中古在庫が潤沢なためヤフオクでは2〜3万円で買える。ありがたい事であります(2010年の初頭に入手)。


SENNHEISER MD441Uは

・楽器を録るためのマイクではありません。
・ボーカルを録るためのマイクでもありません。
・小鳥の鳴き声や機関車の音など、いわゆるSE系を録るためのマイクでもないし、測定用マイクでもありません。

 MD441Uは、主にスピーチを拡声する事を目的として開発されたマイクです。日本の国会議事堂@永田町の議場内で用いられてるのは、このMD441なんだそうですよ。そういうような場所で使われるためのマイクの中での最高級品、それがMD441U。しかしなぜ私がそんなマイクを使うのかというと、

「リボン・マイクの音に似てる」

という定評があるからです。リボン・マイクというのは実に良いものなんですけど、デリケートで壊れやすい、しかもデカくて重い。ですからリボン・マイクに似た音で、しかも本物のリボン・マイクよりかは扱い易いマイクがあれば素晴らしいではありませんか。リボンに音が似てるというより、リボンが得意とするソース(和楽器など)を、MD441Uもまた得意としてる(得意分野が被ってる)という点でMD441Uとリボン・マイクは似てる、という言われ方もされてますね。


機能的には、


ハイ上げ用スイッチと、


5段階のロー・カット・スイッチを装備。

 ハイ上げのON/OFF2択とロー・カット5段の組合せで、2×5=10通りの音色設定が可能。こういうのも「スピーチを拡声するためのマイク」ならではの機能だという事になるのかなあ。スピーチとは、どういう状況で行われるものであるかを考えてみると、

・音響的にプアな環境で行われる事も多いであろう。
・話者の顔を聴衆によく見せる事を重視し、マイクをベストの位置に設置出来ない場合も多いかも知れない。
・PAがしょぼくて、ミキサー等で音質補正を充分に行えない事も多いかも知れない。
・何よりも、発音が明瞭に聴き取れなくてはならない。

等々ですね。こういった条件下でも優れた働きをしてくれるのが、即ちスピーチ用マイクの高級品という事になりそうですけど、MD441は

・指向性を絞る事で、周辺音の被りを低減。
・オフ位置で使うのが基本。
・マイク側でかなり音質補正できる。

という風に設計されてるわけです。発音を明瞭に拾ってくれるマイクは、ボーカル用に用いた場合「下手が下手なまま」出力されてしまうケースが多い。辛く悲しいマイクです。

2010/10/23

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2014年4月追記;

 2010年にこのマイクを入手してから2014年まで何度か録音に用いたものの、2012年の夏以降は休眠状態で、結局は手放しました@2014年4月。
 2013年10月にMXL R144を2本まとめ買いした時には既に、SENNHEISER MD441Uは手放す候補だったのです。MD441Uを売却すればR144×2本分くらいの値段にはなってくれるだろうから、R144がひどいハズレ製品でない限り、このトレードは悪くない。私がMD441Uに求めていたのは「リボン・マイクの代用品」みたいな役どころで、つまりMD441Uがリボン・マイクよりも
・壊れやすくなく、
・重たくなく、
・ゲインはダイナミック・マイク並みにあって、
・しかも音質はリボンっぽい。
というマイクなら良いなと思っていた。それで実際に使ってみた感想は、MD441Uは「ソフトな音」のマイクで、しかしソフトなわりにはソースを正確に再現する、という点はたしかにリボンっぽいのかもだけど、私の持ってるリボン・マイク、RCA BK-5Bは音が硬いマイクで、しかし私はそれが気に入ってるため、MD441Uに対してはコレジャナイ感が少々ありました。

 それとMD441Uは、ダイナミック・マイクとしてはゲイン低め。更に、ダイナミック・マイクとしては大型で重たいから(リボン・マイク程ではないにせよ)セッティングが面倒。
 MD441Uとはそういうマイク。だったらMD441Uではなく本物のリボン・マイクを使うのでも良いかもですよね。また、新たに入手したMXL R144は、けして手放しで誉められるような品質の製品ではなかったけど、BK-5Bとはタイプの違う「リボンらしい音」ではあるし、さらに双指向性というMD441Uには無い(BK-5Bにもない)利点も持ってるから、やはり当初の予定通りMD441Uは手放す事にしたのです。
 金銭的な余裕があるならMD441Uを手放さず手元に留め置きでもかまわないのですが、しかし今後はもう滅多に使わないだろうと予想される機材を飼い殺しにするよりかは、これを有効活用してくれるかも知れない人に譲った方が良いです。

 私がMD441Uを入手した理由はもう一つ、このかっこいい、いかにも高級品っぽい見た目のマイクを実際に使って、どんな音なのかを知りたいという事もありました。Oktavaとかも見た目だけで買ったようなもので、そういう動機は興味本位でダメなのかもだけど、私はマイクに限らずレトロ・デザインの工業製品は何でも好きだからしょうがない、というような事とはまた別に、自分の所有マイクの全てが安物なのもちょっとどうかと思うのですね。


(せっかくだから大きめサイズの画像を追加UPしときます)

 ギター類に関しては、私はYAMAHA AE-2000という、1980年頃のヤマハの、という枠内ではあるけど、それでもそのメーカーの最高額の製品を所有していて、その事には気持ちの重しになってくれる的な作用があるのです。何はなくともAE-2000さえ持ってれば取りあえず安心。と同時に、これを使ってるのに結果が伴わないなら、それは所有者側に不具合があるのだと判断せざるを得ない。そういう製品を持ってるのと持ってないのとでは大違いなのですよ。だから私はマイクにも、そういう役割のものを求めてしまいがちです。

 ただ、楽器とマイクとには大きな違いがあって、例えばマイクの一番の高級品といったらノイマンのコンデンサとか、まあそういうのを買ったとしても、それを宅録で、つまり防音も何もされてない一般住宅で使うのは無意味なのでして、マイクに何十万円も出すならその前に、録音環境の整備に投資するべきである。しかしそれを本気で行うなら、まあざっと2〜300万は掛かりますかね。数十万円で買える防音室とかもあるけど、それの中のヒドい音をノイマンで録ってどーするという話しで、つまりマイクは、マイクだけ高級品でもしょうがないわけです。その、道具としての性質が楽器とマイクとでは大きく異なるわけで、だからとくべつ高級なマイクを所有する必要はないのだけど、とはいえやはり、安物ばかりなのもいかがなものか。

 「これさえ持ってれば取りあえず安心」なマイクという事でなら、私にとってのRCA BK-5Bは(けして高級品ではないけど)音質に関しては安心マイクに近いものです。しかしBK-5Bはゲイン低すぎる。なのに重たすぎる。そのため適用範囲が限られる。さらに、急に故障してしまうかも知れないという不安が常にある。実際、MD441Uを入手した頃、BK-5Bは原因不明のノイズが発生するという不具合を抱えてましたし、だからこそMD441Uを入手したのでもありましたけど、その後BK-5Bの不具合は解消したので、その点からもMD441Uは、自分にとっては不要品になってしまったですね。

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 ともかくそんな理由の諸々があってMD441Uを売却、つまりヤフオクに出品する事にしました。となると出品前に動作確認をして不具合がないかを調べますから、久しぶりにこのマイクを鳴らしてみました。といってもマイク・プリアンプに突っ込んでアーとかウーとか言ってみるだけですが、そんなチェック方法でも、やはりこのマイクの音はちょっと高級っぽいかもと改めて思ってしまいました。アナログのオーディオ機材には、
「値段が高く、重量が重たいほど音が良い」
という一般法則があって、それってなんなんすかねーとは思うんだけど、やはりそれはそうなのであって、MD441Uを通した音は、高くて重たいマイクならではの音でした。以上の印象を踏まえ、ヤフオクに出品する際の「商品説明」には以下のような文章を書き添えました。

(MD441Uは)1972年に発売された製品で、70年代の中頃、私が知ってる範囲内でも、タワー・オブ・パワーやアースウィンド&ファイアーのボーカリストがライブで用いてました。また、日本の田中角栄総理が街頭演説で用いてる映像なども残ってます。当時、けっこう流行ってたようですね。音も外観も、いかにも70年代な高級感と精密感のある製品です。60年代のマイクほどローファイではなく、80年代以降のマイクほどエッジが立ってない、中庸と正確さが特徴。

自分でこれ書いてて、やっぱり売るの止めようかと思っちゃいましたね。
「なるほどMD441Uとはそういうマイクだったのか!」
と、こうやって文字に書き出してみて初めて気付いた的な、なんかマヌケな話しですが。自分、このマイクに相応しい使い方が分かってなかったのかも。それを知らないままで手放したのは、やはり少々もったいなかったかもです。

 マイクの音質云々を評価する際は、そのマイク単体ではなく、ミックスの中で他の音と混ざった時にどうなるかの方が重要かも知れません。いや、ミックスの前面に出てくる音、つまり主役のためのマイクなら単体の評価で充分かもですが、脇役用のマイクを選ぶ時にはそれの音質が、いい感じに背景を埋めてくれるかとか、悪目立ちしないとか、ミックス全体をしっかり下支えしてくれるかどう等々が重要になってくる。
 打楽器や低音楽器用には、それに適した定番マイクがあります。また、全てのパートを同じマイクで録って、主従関係はマイクの立て方やEQその他エフェクト処理で作るという行き方もあります。しかし例えば、イントロがギターのアルペジオのみの曲で、そのギターの音がしっかり印象に残る音に録れて、しかも歌が入って以降は(EQ操作などせずとも)自然に背景に溶け込んでしまう、そういう性質のマイクがあったら素晴らしい。そしてMD441Uは、もしかしたらそういう使い方の出来るマイクだったのかもと、そう考えると手放したのは失敗だったように思えてきてしまうわけです。

2014/04/29

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