AKAI CD3000XLでベートーベンのピアノ・ソナタ、90年代末頃に作った打ち込み

2012/02/10
(改)2017/05/20


 1990年代の終わり頃、私はクラシック曲の打ち込みデータをいくつか作りました。このページのベートーヴェンのピアノ・ソナタも、それらの中の一つです。
 ただ、これは当時所有してたアカイのサンプラー、CD3000XLを用いる前提で作ったMIDIデータで、しかし私は1999年、ちょっとわけあってCD3000XLを売却。そのためこのデータを鳴らせなくなり、手放す前に録音もしてなかったので聴き直す事も出来ず、という状態が長らく続いてました。
 CD3000XLにインストールしてた音色プログラムは、EAST COLLEXION CD-ROM SERIES "PIANO"というCDに入ってるSTEINWAY/31.5MB、それを少しエディットしたもの。

 どうエディットしたかというと、ノート・オン・ベロシティに対するpp〜ffの関係。アカイのパッチ用語でいうところのベロシティ・センシビティを、わりと低めのベロシティ値でffになるように調整してます。
 何故そうしたかと言うと、私の打ち込み作業が、最初ベロ64でベタ打ちして、そこから足し引きしていくという手順だったため、とくにこの曲の場合は、ベロシティ低めでffになる方が、都合が良かった(んだと思う。曖昧な記憶ですが)。
 ともかく、そんな設定にしたせいで、この音色プログラム用に作ったデータをCD3000XL以外の音源で鳴らすと、全体に音量が小さく、強弱の幅が狭いものとなってしまう。MIDIデータが手元に残っていてもアカイのサンプラー本体がないと、このデータを自分の意図通りには鳴らせないわけです。

 ですが2011年末にCD3000XLを再入手したので、これの動作確認も兼ねて、その約10年前に作ったベートーヴェンのデータを鳴らしてみました。

L.V.Beethoven
Piano Sonata No.8 Op.13 -"Pathetique"


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DAW上でリバーブを足してあります。設定は以下の通り。

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 リバーブ・タイプはホールなのに初期反射成分が多いっていう変な設定ですけど、なんか色々いじってる内にこうなった。しかも更にミキサー段でもちょっと細工をしてるんだけどそれの詳細は略。

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 自分が何年も前に作ったものを久しぶりに聴き直すと、あちこち痛い。それは演奏や自作曲だけでなく、クラシックの譜面から起こしたMIDIデータでも同じだという事を痛感させられます、この作例。
 今の自分なら絶対にこうはしない、という個所が、このデータには多々含まれてるわけです。というか、このデータを作った奴は耳が悪い。音楽が聴けてない。こんなMIDIデータは、中学生の夏休みの宿題レベルのナニでございます。

 とはいうものの、今更このデータを作り直そうとは思いません。クラシックの曲、というか、何百年か前に書かれたアコースティック楽器のための曲。それを生演奏っぽく聴かせるためのMIDIデータ作りというのは、ものすごく面倒で時間がかかる作業なのです。90年代の頃の自分には、それをやれる余裕があった。逆にいうと、他にしたい事がとくに無かった。今の自分には無理です。他にもっと面白い趣味が色々増えたので。

 私がこの先、運良く大病もせず事故にも遭わなければ、80か90才くらいまで生き長らえる事でしょう。すると早くて60、じゃなくてもどうしたって70才を超えた頃から「指は回らず声も出ず」という状態になって、楽器を弾くのが面白くなくなる。しかしそうなってもまだ音楽をしたい気持ちが残ってたなら、その時こそ「打ち込みでもするしかない」という気分になるかもで、だからこのテの作業には、そうなってから取り組み直すので良いんじゃないかと思います。

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 と、↑に書いた感想は2012年2月、この録音をした当時に利用してたSeeSaaブログに(音声だけを)UPした時に書いたものでしたが、2017年5月、その音ファイルをスライドショー化してYouTubeに移動しました。それがこのページに貼ったもの。
 このスライドショーを作るため約5年ぶりに、わりとじっくりこの録音を聴き直したのですが、すると5年前ともまた違った感想も生じる次第で、まず、
「今の自分なら絶対にこうはしないという個所が多々含まれてる」
という件に関しては、個所が多々なんていう細かい話しじゃなく、なんか全体的にダメだなこれwっていう。

 90年代にこのデータを作った時の意図は「生演奏っぽい打ち込みを作る」でした。1997年か98 年頃の状況では、それが面白そげな事に思えた。当時のDAWは生音を録音するための道具じゃなかったですし。ですが自分、もうそれには興味なくなりました。人工知能、AIの性能が上がって囲碁の世界チャンピオンには勝つし小説も書けちゃうという2017年現在は、パソコンに自動演奏させる事の意義は20年前とは異なってるのですね。いやつまり、シーケンス・ソフトでチマチマ演奏プログラムを作るなんて意味ない、そんなのはAIにやらせればいい、
のではなく
もはや、AIにやらせれば人間が弾くのと同等か、あるいはより優れた演奏が可能である。ピアノ演奏のためのAIはまだ開発されてない(と思う)けど、経済的な価値があるならすぐにでも作られるであろうという見込みで、クラシック曲の演奏でのAIの優位は既に明らかである。という状況ならでこそ、AIには生み出せないような、そしてもちろん生身のピアニストにも不可能な、クラシック曲の演奏がシーケンサーに可能かどうかを考えるのは、とても面白いに違いない。でまあそれ、考えてるだけじゃ意味ないので実際に作ってみないと。

 なわけで、2012年に書いた文章内容については「ダメな個所が多々」の件だけでなく、「自分が老いて指が回らなくなってから再開する」という点に対しても今は反対の考え方になってます。こういうのは、頻繁に作るのは無理だとしても、やはり少なくとも数年に一度くらいのペースで作った方が良いんじゃないかな。

 クラシック曲の打ち込みを作るのは、自己学習の効果も高いです。という事も今回この録音を久しぶりに聴き直して感じた事の一つ。いや、このデータを作る事で何かを学べたのではなく、ダメだった過去の自分の記録を残しておいたのは良かったかなと。
 実際とこ自分、このデータを作った時点ではウィーン古典派のソナタ形式って何なのかがよく分かってなかった。分からないからこそ、こういうのを作った。で、それを20年後に聴き返して、ああ自分なにも分かってなかったなあっていう、過去と現在との距離感をこれで測れる、という点に学習効果がちょっとある。こんなもの、頻繁に聴き直したくはありませんけど、定点観測的な記録として残しておくのも必要な事なのではありましょう。

 あと「楽器が弾けない替わりに打ち込み」っていう考えはダメだよね。一般に、楽器が弾けない人が作った生演奏シミュレート系は珍味にしかならない。打ち込みソフトに悪い耳を補正する機能はございませんので。ならばそれ、ヨボったから打ち込みというのも同じではないか。楽器が弾けるからこそ、時々機械まかせにするのも意味がある。ってんじゃなきゃ面白い打ち込みにはならないかも知れないですよね。

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 もともと音声しかなかったこの録音をYou Tubeに移すにあたってはスライド・ショーにします。なら折角だからと、バッハの2曲は譜面を追えるようにしてみました。今回のベートーヴェンも同じにしても良かったのだけど、いろいろ考えた末、ほぼ静止画のみという簡略なものにしました。その理由は、バッハと比べページ数が格段に多いのでスライド・ショーを作るのが面倒なのはまあ当然として、しかしそれだけではなく;

 ベートーヴェンの曲の特徴というか良い点は「分かりやすい」。構成が明瞭で全体像を見渡しやすい。シンプルな音楽だとさえ言える。深く悩むような点などとくに無い。少なくともこの"Pathetique"みたいな初期作品はそう(そしてたぶん中期頃も)。
 なのに、この曲の譜面の見た目は、とても毛深い。譜面を追ってると目がシバシバしてくる。耳に聞こえてくる音はシンプルなのに、譜面の見た目はゴチャゴチャ。この印象の食い違い方は不快だ。という事を今更ながら感じたので、ともかくベートーヴェンの曲に譜面を付けるのは良くないなと。
 ベートーヴェンの譜面の見た目が毛深くなる理由はわりと明白。モノフォニー寄りの音楽だから、概ね右手はメロディ、左手は伴奏。それで、その左手の伴奏の音符を全て几帳面に記譜してあるから、譜面上に無駄な情報が増えてしまう。
 これ、ポップスの譜面でいうと例えば、一曲の間ずっとコードストロークを弾いてるギター用に、全ての音符をリズム形どおりに書き出したようなもので、しかしポップス業界でそんな知恵の足りない譜面の書き方をする人はいない。繰り返し記号を用いて略記しますわな。なのにクラシックでは全曲びしーっと書き埋める。まあクラシックの売り譜ってのはヌリエママゴト芸のための商品だからそうなっちゃうのかも。でもそれがクラシック業界の風習で、ベートーヴェン自身もそういう書き方をしてたならそれはそれで尊重すべき事なのかもだけど、しかしベートーヴェンほどの人が、そんな間抜けな事をするのだろうか?じゃあちょっと"Pathetique"の自筆譜はどうなってるか見てみようと思ってググったのだけど見つけられなかった。どうやらこの曲の自筆譜は残ってないもよお。その代わり「ヴァルトシュタイン」があったのでそれを参照;

ですよねー。やっぱこう書きますよねー。ベートーヴェンは、少なくとも記譜法に関しては常識人。よかったよかった。


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