(お別れ録音)VICTOR SG-18、2011年3月

2011/03/19
(改)2017/08/14


日本ビクターが1965年に発売したSG-18。当時の広告には、

まさにエレキ・ギターのダイゴ味。それは優れたマイクが味あわせてくれる魅力です。ビクター・エレキ・ギターの抜けるようなクリアーな音色、素晴らしい音の秘密は、音の世界のNO.1、ビクターの音響技術から生まれた、超高性能マイクにあるのです。

なんて書かれてる。ビクターの所属歌手・橋幸夫のエレキ歌謡第一弾「恋をするなら」が発売されたのは1964年8月。

その一年後にビクター・ブランドのエレキが発売されたという流れです。橋幸夫のエレキ歌謡、というかリズム歌謡は67年5月の「恋のメキシカン・ロック」まで計7曲が売り出され、たぶんあまりぱっとしないまま終了。それと同期するようにエレキの販売もフェードアウトしたように思われます。

 ビクターのエレキの製造元はマツモクで、木部は同時期のコロムビア・ブランドのエレキと同程度の品質。60年代中期の日本製としてはマトモな方です。ただ、私が入手したこのSG-18はネックが順ぞり気味で、あまり弾きやすくはなかった。それとアームが欠品でトレモロが使えない。そこで今回は、

左手は人差し指1本だけで弾くギター

というのを録音してみました。弦を押さえる方の手=左手は、リードもバッキングも人差し指1本しか使ってませんよ、という作例です。

■ギター・アンプはYAMAHA YTA-25/マイクはAUDIX D1
■PUポジションは、リードがC。バッキングはF+R。
■ノー・エフェクト/クリーン・トーン

■2011年3月4日録音

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 バッキングのコードは以下の6種類です。6本ある弦のうち、1個所しか押さえない(2番と4番)、あるいは3〜4本の弦をセーハする(1番、3番、6番)、さらには、どこも押さえない(5番)というコードだけ。

○とか△の意味は、

×=鳴らさない方がよい、ミュートするべき音
△=状況によっては使用を制限するべき音
=いわゆるコード・ルート

コード進行は下記の表の通りです。

*)私の演奏ではベース・ライン的な動きを加えるために、上記コード表の●ポチを打った場所以外も押さえてますが、それも全て人差し指だけで行ってます。

 コード・フォームがシンプルだからといって、それが必ずしも押さえやすい形であるとは限りません。今回の作例は最もシンプルな形でどれほどの事が出来るかを示すためのものです。なぜこれを作ったかというと、21世紀になった現在も、初心者用のギター教則本では最も基本的なコード、一番最初に憶えるべき形として、

 ↑これが載ってるらしくて、私的には「いまだにこれかよ」みたいな驚きがあったものですから。このを最初に練習するのは絶対におかしいと思うのです。

・けして押さえやすい形ではないし、
・4本の指を均等に使うという点では訓練になるのかも知れないけど、
・それはつまり「効率の悪い形」だという事なのでもあり、
・なによりも、コードの響きにギターならではの良さが生かされない形である。

 私はこのが大嫌いだ。指板を指一本でペタっと押さえるだけで、上記コード表の1番や2番のような洒落乙コード・サウンドが生まれるのがギターという楽器の美点なのに、初心者が何も知らないのをいい事に、わざわざみたいな、押さえにくい上に響きも良くないコードの習得を強要するなんてイヤガラセとしか思えない。それで次に出てくるのが、

 最悪ですよね。

*)を使っちゃダメなのではなく、これが一番の基本という扱いになってるのがおかしいと言いたいのです。どのみちロー・ポジションでのCはこれを使うのだから、初心者もいずれは憶えなければいけない形です。それとエレキとアコギではコードの鳴り方が異なり、アコギでならこのCもFも、けっこう良い響きがすると思います。

 ギターという道具から美しいサウンドを引きだすために必要なのは、指をへんな形に折り曲げて、必要でもない握力を鍛え、楽器をギュウギュウ押さえつける事ではなく、指板上の丸ポチの配置の如何によってサウンドが良くもなれば悪くもなるという、パズル・ゲームの面白さを理解する事。そして、そのパズルを遊ぶための自分なりのルールを見つける事なのだから、いわゆる最も基本的なを憶えたりするのは時間の無駄である。初めてギターを触る人は、左手は極力シンプルにしておいて、右手の練習に注力した方がよい。最初の段階で最も重要なのは「リズムを崩さない」という習慣を身に付ける事。左手で色々な事をし始めるのは、ギターを抱えるという姿勢・行為に体全体が馴れた後でぜんぜんOKだと思います。

 楽器には大まかに分けても弦楽器/管楽器/打楽器/鍵盤楽器など色々な種類があり、さらに弦楽器の中だけでも、指やピックで弾くもの/弓で擦るもの/棒で叩くもの等々に細分化される。とにかく、やたらと沢山の種類があるものです。なんでそんなに沢山かというと、どんな楽器にも、それぞれ他の楽器と比べた場合に長所・短所がある、というのが理由の一つ。では、ギターという楽器の長所は何か?ざっくり言ってしまうと、
 かんたんな楽器だよ☆
という事ですね。演奏技術を習得するのが容易なうえに、値段が安く、室内に置いてさほど邪魔にならず、持ち運ぶのもまあまあ容易な大きさ。バイオリンや管楽器よりかは丈夫で、音量は大きすぎず、エレキなら電力で調節可能。万事お手軽。すごく普及するわけだよね。ギターは大衆的楽器の王様である。あるいは女王である。もちろん例えば「鍵盤ならスラスラ弾けるけどギターにはどうも歯が立たない」という人も少数ながらいるけれど、たいていの人にとってギターとは、少なくとも歌の伴奏のためにコードを掻き鳴らすという使い方なら、わりとすぐにマスター出来る確率の高い楽器である。ギターは簡単な楽器。それがギターの最大の美点
 ですから、ギター初心者がはじめに憶えるべき事も、とにかく簡単に、出来るだけ簡単にと心掛けるのが理に叶ってるのではないでしょうか?押さえにくいコードの形で練習を始めるなんて、ホント無駄な事だと思います。

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人差し指一本でメロディーを弾く件;

 この録音はリード・パートも人差し指一本で弾いてますけど、メロディーを弾くという事に関しては2本以上、出来れば3本以上を使う方がぜんぜん楽。とくにアドリブで弾く場合、一本指奏法は難しいですよ。一本指では音程幅の広い跳躍や早いフレーズが難しい、という事ではなく、
・スペースをたっぷり使った大まかな譜割
・シンプルなフレーズ
・要するにスカスカ状態
にならざるを得ない技術的制限を設けたうえで、音楽として成り立つ演奏をするが難しい。メロディーの一本指奏法は音楽的なチャレンジであり、訓練のための方法です。

 実はこの一本指メロディー奏法はパット・メセニーがやってる(とインタビューで語ってた事)の真似です。だから既知の人は多いかも。メセニー氏は「スランプ気味になった時に、自分をリセットするために行う」と語ってたと思うんだけど、詳細は忘れました。ともかくこれは良いアイディアなので、私も時々試してます。ただ、あまりやりすぎると一本指でもけっこう自由自在に弾けるようになってしまい、そうなっては意味がないのでホドホドに。ウェス・モンゴメリーの(右手の)親指一本奏法も、これと似た発想の産物であるとも言われてます。技術に制限を掛ける事で音楽が引き出される、という発見。

 自由自在に弾けるのがダメだという事じゃないんですよ。むしろ楽器の練習とは「弾きたい事を弾きたいように弾けるようになる事」を目指すべきで、それはつまり「自分が弾きたい事の全て」を自由自在に弾けるようになる事かも知れない。ただしその場合、「弾きたい事」が自分の中のものか、あるいは外部から要請・強要されたものなのかによって、自由自在の意味は変わる。メロディーの一本指奏法は、自分の「中」の弾きたい事を探るための練習って事になります。たぶん。

 ではそもそも、自分の中の弾きたい事って何だって話しになりますけど、大抵の人にはそんなものありません。私の中にも無いかもです。これちょっと残念なご報告かも知れませんが事実です。音楽が好きだからとか、楽器をやってるからとか、それだけで自分の中に弾きたい事が自然にムクムクと湧き上がって成長して形を成す、なんて事は起こりません。例えば「感情を表現する」なんてのは音楽等をしたがる人の多くから好まれるお題ですけど、しかし感情というのは、
・外部から与えられた刺激に応じて生じるもので、
・多くの人が共通の反応パターンを示すもの。
つまり感情は、自分の中のものではないし、自分だけのものでもない。以上の事情は「感情」以外のお題についても概ね同じ。じゃあ本当に自分の中のものだと言える弾きたい事ってなんだ?そんなの実際にあるのか?という疑念も生じさせる故、一本指奏法は難しい。
・一本指で不器用に並べたスカスカの音群であっても、音楽として成り立ってなくてはいけない。
・それが無理でも少なくとも、私の脳みそ内にある音楽像のスケッチ、荒削りな骨組みや走り書きの設計図的なものを示せなくてはいけない。
 もし私にそれが出来ないのなら、私の中に音楽はないのが明らかで、その場合は楽器の練習とも違う学習等が必要となります。一本指で弾いたラインがならば、その芋臭さを粉飾しようと細かい音符で埋め尽くしても、かえって芋が増量されるだけ。メロディーの一本指奏法は、自分の音楽性を測るのに格好の題材です。

 弾きたい事が自分の「外」にしかないのがダメって事でもないんですよ。楽器を弾いて人気者になりたい・お金を儲けたいと言うならむしろ、自分の中のナントカなんて弾いちゃダメ。そして、音楽をする動機としての人気者になりたい等は、とても重要なものです。音楽というのは俗っぽいものだし、音楽家は俗に奉仕する者でなくてはならない。
 ただ、弾きたい事が自分の中か外か云々の事は常に意識したいと思う。なぜなら、外部から与えられた・擦り込まれたもの〜感情・価値観・思想等々〜を自分の中のものだと勘違いしたまま送る生涯は虚しい。これは様々な事例からそう言える事なので。

 弾きたい事が自分の「外」にある場合、自分の演奏でそれがちゃんと弾けてるか弾けてないかの判断基準も「外」にあります。でまあその基準を満たすべく練習する。それで(運が良ければ)弾けるようになる。となった時の「弾けてる」という意識は、自分の「中」への感覚を鈍くする。私はそうはなりたくないので、そのための工夫を色々。メロディーの一本指奏法はその中の一つだという事です。

 



 一本指奏法の作例はもう一つあります。こちらは、いわゆるロックンロール的な定番パターンで、リードはスライド・バーを使ってます。

■ギター・アンプはYAMAHA YTA-25/マイクはAUDIX D1
■PUポジションは、リードがR。バッキングはF。
■両パートにPOSのディストーションを掛けてます。設定は、
リード;Tone=3時、Dist=12時
バック;Tone=12時、Dist=12時

■2011年3月4日録音

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 バッキングは下図の形を用いてます。本式のロックンロールはこれじゃないんですけど、今回は指一本にこだわったので。
 1番から2番に移る時等に、●ポチ以外の場所も色々押さえて軽く味付けしてます。そういうのは演奏者個々人の好みに合わせ、好きなように作り替えればOK。

 上図3パターンを下図の順番に並べるとロックンロール☆

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 POSのディストーションはモッサリモーモーな歪み方をするペダルだと思うのですが、今回のは河原で小石がガラガラ転がってるような、どこか壊れてるんじゃないかというような音になってますね。ギターとの相性でそうなるのであろうか?これはこれで良い音だとは思うんですけど、本当にどこか壊れてるのかも知れません。

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 このエレキのネックは固定式ロッドの入ってるスチール・レインフォースドのはず。ジョイントプレートにそう刻印されてたから。だけどネックエンドには小さなナットの頭が出てるので、もしかしたらトラスロッドが入ってるのかも知れません。しかしそのナットは固着してて動きませんでした。よく分からんです。


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