Teisco Spectrum 5 "reissue"
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テスコのスペクトラム・ファイブです。

これはオリジナルではなく、近年の再生産品です。僕はオリジナルの方を所有した事はありません(触った事すらありません)。

オリジナルのスペクトラム・ファイブが発売されたのは1966年。

リットーのビザール本によると、輸出の方は国内発売の前年65年から開始されていたらしい。

再生産スペクトラムの発売は1992年で、当初は「限定生産」という事だったようですが、意外に好評だったのか、その後15年間ほど販売が続けられました。
販売期間が長くなったので、初期型と後期型では微妙に仕様が違う部分もあるらしいんですが詳細は不明。この画像の個体の製造年も不詳です。


ボディ・シェイプ、ピックアップ、トレモロ・ユニット、コントロール系という、楽器にとって主要な部分のほとんどが、この機種のために新たに設計されたものです。

ピックアップがこの機種専用に新開発されたものかどうか、ちょっと微妙な感じがしてきたので、とりあえず消し線を入れておきます(2008/12/14)。

■ボディ・シェイプはフェンダー・ジャガーとモズライトの混ぜ合わせですが、その両者にはない「鋭角」が印象的なデザイン。このボディ・シェイプ自体はその後"スペクトラム・シリーズ"としてK-PU等を載せた廉価版などにも使い回されながら、カワイ買収以後のラインナップにも利用され続けたようです。
後年、B.C.Richがこのシェイプをちょっとアレンジした"イーグル"で一世を風靡したのも有名な話(かどうか)。

B.C.Rich製品のニック・ネームはSeagullEagleMockingbird。つまりに因んだものですね。そう言われてみるとなるほど、これらは鳥の頭部や翼の形をアレンジしたボディ・シェイプなんですね。ですからリッチとスペクトラムが似てるのは、やはり他人の空似って事ですかねえ。

■トレモロ・ユニットは板バネ式です。テスコがトレモロ・ユニットに板バネを用いたのはこれが唯一の例だと思います。このユニットはスペクトラム・ファイブにしか用いられていません。

■音色切替のスイッチは「ラジオ・ボタン式」です。テスコがラジオ・ボタンを用いたのも、この機種のみ。

■ピックガードには金属製の機種名のエンブレムが取り付けられています。こういう装飾に豪華仕様を盛り込むのも、他のテスコ製品にはない事。

以上、「この機種限定」な要素の多さから考えるに、これは66年当時もやはり「限定生産」的な扱いの製品だったのかも知れないようにも思えてきます(現存数も少ないですし)。


再生産品ですので、ペグは現代のカバード・タイプの物が使われていますが、オリジナルはたぶんこのタイプ花柄デラックス・タイプが使われていたと思います。

ヘッドのカバーは3プライの塩ビ板。
このカバー、基本的には「ただの装飾」なんでしょうけど、一応「弦の切り口でペグの周囲に傷が付くのを防止する」とか「ペグ軸安定性の補強」等の機能を持ってるのかも。


テスコのエレキでジャーマン・カーヴを持つモデルの初登場は1966年。SMシリーズKシリーズ、そしてこのスペクトラム・ファイブの3機種まとめてでした。

この3機種の中でセル巻きがされているのはスペクトラムのみ。

その後のテスコ製品でジャーマン・カーヴを持つ機種は、あからさまなモズライト・コピーであるヴァンパー等だけで、ジャーマン・カーヴありのテスコって、案外少ないです。


スペクトラム・ファイブの象徴ともいうべきカラフルなスイッチ、これはラジオ・ボタン式のもので5通りの切替が出来るようになってます(ラジオ・ボタンですので同時に2つ押しは不可)。

それで各ナンバーごとのPUの組合せ方説明……なんですが、音色の変化とポールピースへのホット・タッチでは、一体どういう組合せになっているのか僕には判断出来ず。

それぐらい複雑な組合せである、とも言えるし、実は各ポジションでの変化はそれほど大きくもないようなところもあり……

なので、ここでは説明のため、再生産時のカワイの宣伝資料を引用いたします。

6個あるPUには1〜6まで数字がふってあり、それはたしか
・低音弦側ネック側から 1-3-5
・高音弦側ネック側から 2-4-6
だったと思うのですが、この点に関するメモが残っていないのでちょっと怪しいです。もしかしたら全く逆の並びだったかも知れません……なんですが、下の組合せ方を見れば、それはあんまり関係ないかなという気もいたします。

何にせよ、このプリセットの組合せの中から選択して使うしかない機種ではあります。

No.1 PU1〜3とPU4〜6がON(ローカット・サウンド)
No.2 PU1〜3とPU4〜6がON(フェイズアウト・サウンド)
No.3 PU3とPU6がON    (シングルコイル・サウンド)
No.4 PU1・3とPU4・6がON(ノーマル・ハムバッカー・サウンド)
No.5 PU1〜3とPU4〜6がON(ハイパワー・ハムバッカー・サウンド)

特徴的なのは5通りあるうちの3通りまでが、6個全てのPUがONであるという事。この全開状態でローカット/フェイズアウト/ハイパワー・ハムの3種類の音色を作り分けています。

しかしこの状態、例えばストラトに置き換えて考えてみると3つのPU全てをONにして、回路の細工で音色を作り替えてるという状態なわけですが、

そんなストラトは、いかがなものかと。

この回路から得られる最も普通というか素直なサウンドは、No.3シングルコイル・サウンド(これはストラトのリア単体に相当)のみ。

カラフルなスイッチにはPU切り替えの1〜5の他にもう一つ、MONO/STREO切り替えスイッチがありまして、これをステレオ側にした場合は1〜3弦と4〜6弦がスプリットされて出力されます。

ボリューム・ツマミはモノラル使用の場合は1V/1T、スレテオ使用の場合は1〜3,4〜6弦それぞれに対してのボリューム・コントロールになります。

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とまぁとても凝った回路で力作で、66年当時としては非常に先進的なもので、またPU出力をセパレートするというアイディアはその後もいくつかのメーカーで追求され続けたものでもあり(そしてその完成形はMIDIドライバーとして利用されているのでもあり)……

一方、このスペクトラムのPUをごく普通の結線で使った場合の音については、僕はカワイ期NormaブランドのフルアコにこのPUが載っているものを持っていまして、その音は良いものです。K-PUの破天荒なところが抑えられつつ、押しの強さとギラギラ感は残っている、というような音。

ライ・クーダーはラジオ・ボタンを全てミニ・スイッチに交換したスペクトラム・ファイブを使っているようです。その写真を見た時は「なんてもったいない事を」と思ったものですが、自分でもこのギターを使ってみたら「あぁ、なるほど」みたいな印象で。
僕もこれを自分用の楽器として使うなら、とりあえず回路はごく普通に素直なものにしてラジオ・ボタンは没にしちゃうと思います。そういう改造をしても、見た目的に「最も美味しいポイント」であるこのカラフルなスイッチを残しておく手立てはあるものです……なんですが、僕はそこまで思いきった改造を施す気もなく、このギターはオリジナル状態のまま手放してしまいました。

ラジオ・ボタンは不調が起きやすい、ちょっと信頼ならないところがあるのも問題で……「押し込み型」ラジオ・ボタンなら(切り替え時の手応えなども含め)まだ良いんですが、スペクトラムに使われているのは「スライド型」でして。
「押し込み型」ラジオ・ボタンはどうしても(高さ方向に)大型にならざるを得ないものですから、スペクトラムに載せるのは(たとえザグリの深さを増やしたとしても)難しいのではないかと思います。


「リイシューとしての完成度」については、ほんのわずかな点を除いて、これはオリジナルに対する忠実度の非常に高いものだと思います……といっても僕はオリジナルを触った事はないので、本当のところは不明ですが、まぁかなりオリジナル通りなのではないかと。ピック・ガードに付けられた"Spectrum5"のエンブレムも再現された、手抜きのないものと思います。

スペクトラムの再生産に関しては「当時の金型が奇跡的に残っていた」というのもちょっと話題だったようです。ところでこのトレモロ・ユニットは、そのメカメカしく重厚な外観にもかかわらず、使われている部品は全てプレス成形のみで、ダイキャスト製の部品は使われていません。ですから残されていた金型というのは「プレス金型」ということになります。

プレス金型はダイキャストより保存しやすい、んでしょうかね。

"Spectrum5"エンブレムはダイキャストか切り抜きか、あるいはこれも型抜きも知れません……って、要するに「わかりません」という事なんですが。裏面を見れば、どうやって作ったかの見当は付きそうなものなんですが、このエンブレムはピックガードから、簡単には取り外せないんですね。

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ネックの"T"ポジション・マークは、これが用いられた機種も非常に限られていると思います(あるいはこれもスペクトラム限定)。後年のNormaブランドのギターには"N"ポジション・マークが使われたりと、国産エレキは60年代中から、象嵌で装飾するのが得意ですね。

カワイ製Normaが製造されたのがスペクトラムより後年なのかどうか?実は同じ時期だった、あるいはスペクトラムよりも先だったのかも知れないように思えてきて、それ故、スプリット・ピックアップもスペクトラム専用として開発されたのではなかったのかもという話しなんですね。この点は、カワイ製NormaをUPした時に書きます(2008/12/14)。

フレットは幅広で高さは低めのもの。1966年当時のテスコのフレットに似ていて、それよりかは現代風に、というような方針で選択されたものでしょうか。


ネックの握りは完全に現代のギター風の薄いUシェイプでした。ですが1966年頃のテスコのネックは(Kシリーズなども含め)既に「薄いUシェイプ」になっていましたから、リイシュー品とはいえ、ネックの握りもオリジナル通りなのかもしれません。

もちろん「ネックがどーとか」には関係なく、やはり弾きにくいのがテスコです。つまりこれはネックの問題だけではなく、

「右手の下がゴチャゴチャしている」とか
「ストラップでぶら下げた時のバランス感覚がアレ」だとか
「座っては弾きにくい(ボディ裏側の角が滑らかにラウンドして滑る)」とか……

まぁこれは、スペクトラムと付き合いたいなら「馴れで解決するしかない問題」ではございます。

座奏する場合に「苦」の原因となる背面エッジのRですが、楽器の造形としては非常に美しい。

ちなみにネック・ジョイント・プレートの下の、モデル名とシリアルNo.が刻印されたアルミ板。これもしっかり再現されているリイシュー品です。


以上、僕が使ってみた限りでは「楽器としてはどうもアレ」な印象で手放してしまったのですが、

尤も再生産だろうがオリジナルだろうが、全てのテスコは「楽器としてはどうもアレ」なのは言わずもがな。逆に再生産テスコは「楽器としてはまとも、変な音じゃないからダメ」という、実に理不尽な理由に基づく不評も多いとか。

近年のテスコその他、「初期日本製エレキ」に対する再評価の盛り上がり(べつに盛り上がってもいないかもですが)に再生産スペクトラムの与えた影響力は大きいと思いますし、このテのギターの需要を「テケテケ」以外の分野に拡げた(少なくともテクノのCDジャケにはなったから)のも、スペクトラムのインパクトあるデザインであればこそ。


電気グルーヴ/DRAGON 1994/12/01発売

リットー社がビザール本を出したのは大きな契機でしたが、あれだけでは(一部の趣味人を刺激しただけで)一過性のもので終わってた可能性が高いと思います。それに対し、多くの楽器屋に「現物」が10年以上の期間にわたって陳列され、続け多くの人の目に触れる事の影響力は大きい。これにより「テスコに目覚める人々」の裾野は、大きく広がった(のかも知れないじゃないですか)。

しかしその「現物」が安っぽくてアレな仕上がりだったなら、それは単なる「ごみギター・リターンズ」として、苦笑の歴史をさらに上書きするだけで終わったでありましょう。ですから、このスペクトラムの「手抜きのない再生産」を実現した関係者各位の尽力に対して、「テスコ趣味」の面々はホント感謝しなくっちゃいけないと思います。

ただ、この再生産シリーズでカワイはちゃんと儲けることが出来たのであろうか?商売としての美味しいところは「リニューアルしたサーフ・ミュージック派」と結託したヤマハが全てかっさらっていったようにも思え。



各パーツ名をクリックして下さい。


Teisco SP-65 Spectrum

リイシュー・テスコにはこんなのもありますって事で、ここに一緒にしておきます。一応、同じスペクトラムだし。

一応同じスペクトラムなんですけど、これはオリジナル期には存在しない新モデルで、なおかつ廉価版な製品。

ボディ材はへんな合成樹脂。へんなというのは、何がどうへんかというと、これは何とも説明のしようがないようなへんなのでして。
粉上の樹脂を「型」に入れて固めたような、得体の知れない何かでして、ともかくへんなんですよ。透明アクリルみたいな、ものすごく重いものではありません。

トレモロ・ユニットはこれ

PUは、フロント/センターがオリジナル・スペクトラムと同じスプリット型で、リアはハム。

コントロールは、トグル・スイッチ×1とミニ・スイッチ×3の組合せで、オリジナル・モデル同様スプリットPUである事を活かした複雑な配線のあれこれを切り換えられるようになってるのですが、操作性は悪いし、肝心の音もどうもアレで。

この製品はたしか、どこかの楽器屋さんのショップ・オリジナルみたいなモデルだったと思います(違うかも知れませんけど)。カワイ本体の方では、また別の仕様の廉価版スペクトラムを販売しておりました。

2007/02/12
(改)2008/04/18
(改)2008/08/30
(改)2008/12/14


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