東海楽器製ラージ・ヘッド・ストラトのコピー、SILVER STAR(SS)シリーズ中の最廉価品、SS-36です。当時の定価は¥36,000-。SSシリーズには比較的高額な機種(定価¥85,000のSS-85@1981年)も一応ラインナップされてましたが、現在の中古市場に出現するSSの大半は36だと思います。「廉価な入門機」という位置付けにある製品ですね。
東海楽器が50年代型ストラトのコピー、STシリーズの発売を開始したのは1977年、というのはよく知られた事ですが、どういうわけかSSシリーズの発売開始年をWeb上で検索しても、はっきり何年と書いてあるページは見つけられません。この画像のSSの製造年は(シリアルNo.の頭が9だから)1979年で、78年より以前に製造されたSSは存在しないように思われますから、
Tokai SSの発売開始年は1979年であろう
というのが当サイトの暫定的な結論。まあ私個人的には78年でも79年でも、1年くらいの違いはどうでもいいんですけど。
1960年代より以前に製造された、いわゆるビンテージ・ギターの価値(過大評価)が高まったのは70年代の中頃からとされており、70年代も末頃になると、本家Fender製のストラトに対して、
・50年代に製造されたもの=すばらしい
・70年代のラージ・ヘッド=ダメ
であるという格付けが明確に定着していたらしい。だからなのか、日本のエレキ・メーカーはラージ・ヘッド・ストラトに対しては「廉価品」という位置付けを与える傾向があるように思えますし、80年代以降になると、
・ラージ・ヘッドを廃しスモール・ヘッドのみをラインナップする(YAMAHAやFernandes)
・一応ラージ・ヘッドもあるけどモデル数を大幅縮小する(Greco)
などの対応をメーカー側もするようになります。80年代の初め頃はラージ・ヘッド、人気無かったわけですね。
1982年の東海楽器のカタログによると、
・STシリーズの一番安いのはST-50 定価¥50,000- 一番高いのはST-120 定価¥120,000-
・SSシリーズの一番安いのはSS-38 定価¥38,000- 一番高いのはSS-80 定価¥80,000-
スモール・ヘッドとラージ・ヘッドとの間には、製品シリーズとしての格差が明確に設けられてます。
*)SS-38とは、36が発売後2年ほど経過して、少し値上げしたもの。
ジミヘンやR.ブラックモアのイメージとの結びつきが強いラージ・ヘッド・ストラトは「70年代ハード・ロックど真ん中なエレキ」なのでもありますが、70年代末期から80年代初頭、つまりTokai SSが販売されていた時期の世の中はNEW WAVEの勢力が強く、ハード・ロックは絶滅種だと思われていた(少なくとも、そう思ってた10代少年は多かったはず)。以上をまとめると、Tokai SSとは
安物エレキなうえにトレンドに逆行したピンぼけ製品
という事になりますか。これの発売開始年についての情報がWeb上にないのも、つまりそんな事に関心を持つ人が少ないからなのでしょう。じゃぱびんをたの人達が蘊蓄を披露し合って萌えあがるとか、そういう趣味嗜好の対象となる製品ではないみたいです。
もちろん私個人的にもSSの発売時期なんて100%興味なしなんですけど、ただ1979年というと、
・他の日本のメーカは既にラージ・ヘッド・ストラトの製造を停止し、
・パテント侵害に関しても本家Fenderがそろそろ本気で対応策を取り始めようかという、
そういう時期に、当時のFender社の現行製品であるラージ・ヘッド・ストラトのコピーを新たにラインナップに加えたトーカイには、何か意図的な販売戦略があったのか、それとも単なる「うっかり」なのか?というような事について多少の興味があります。79年というとフェンダー・ジャパン設立の3年前ですね。
1979年時点でのグレコの一番安いストラト・コピーはSE380の¥38,000-。グレコの実売価格は定価の2割引なので、SE380なら3万円ちょうどくらい。当時、この3〜4万円くらいが「最も良く売れる・数を捌ける」価格帯だったのですが、STシリーズしかラインナップしてなかったトーカイは、この価格帯の製品を持ってなかった。価格競争に参入したい、しかしブランド・イメージは落としたくないとなると、新たに廉価な製品シリーズを設けるのが、まあまあ良い知恵ではございましょう。
東海楽器のレス・ポール・コピー部門にはGabanというセカンド・ライン・ブランドがあり、他社のOEMも行ってたらしい。ですからレスポ・コピーに関しては安売りのためのチャンネルを持ってた東海ですが、ストラト部門ではちょっと事情が異なっていたのかも知れません。
80年代当時も現在も、それほど人気があるようには思えないSSシリーズですが、販売成績自体はけっこう良かったみたいです(最初に書いたように、最も安い36限定ですが)。やはり安けりゃ本数は出るわけで。
楽器としての出来の良し悪し云々についてはどうかというと、STシリーズのボディ材は、その殆どがセンであるのに対し、SSはアルダーであることが多い。この一点だけでも「STよりSSの方が断然良い」のではないかと、私個人的にはそう思います。ただしセン材ストラトがダメなものかというと、べつにそんな事はないのかも知れないし、またSSのボディ材がアルダーってのもカタログにはそう記載されてるからアルダーなんだなと思うだけで、これがアメリカの楽器工場で用いられてるのと同じ材なのかどうかは分からない。もしかしたら国産の代用材なのかも知れない。だから使用材という点からは「STとSSとの間に優劣の差はない」とするのが妥当で無難な結論ではなかろうか。
アルダー(alder)とは、北米あるいはヨーロッパに産するカバノキ科ハンノキ属の広葉樹。
国産材にはハンノキ(榛の木)というものがあり、これはアルダーと同じカバノキ科ハンノキ属の広葉樹。
ハンノキかアルダーかを見た目で区別するのは(とくにそれが製品に加工された状態であれば)、まず不可能だと思われます。
PUや金属パーツに関しては、SSもSTも全て交換した方が良いです(現代の基準からすると残念な品質ですから)。ですからこの点でも「STとSSとの間に優劣の差はない」という事になります。
以上をまとめると、STとSSとの比較では要するに、
「どっちも似たようなもの」
って事になりますね。
私個人的にとってTokaiのコピー製品とは改造ベースとしてのみ価値のある存在なので、だったら安い方が良いに決まってる。SSが人気薄で相場も安いんだとしたら断然SSが推し。
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