テスコのピックアップです。とくに愛称等はなく、外観がDeArmondのものに似てますので、デュアルモンド風とでも呼んでおきます。
外観だけでなく、おおよその寸法と、カバーの固定にリベットを用いるという構造・製法上の類似もありますので、これは「なんとなく似ちゃった」レベルの製品ではなく、ディアルモンドの類似品を作るという明確な意図を持って製造されたものであると考えられます。直流抵抗値は、
・ディアルモンド=約9.2kΩ
・テスコ=約5.8kΩ
ですので、中身まで同じというわけではなさそうですが。

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このPUが登場したのは1963年。カワイ・ブランドのエレキをテスコがOEM生産した時、そのカワイ用エレキのPUとして用いられたのが最初だと思います。

リットーのビザール本の95pに、そのテスコ製カワイのカタログ画像が載ってます。一応、63年より以前からこのPUが(テスコ製品用に)用いられていた可能性もありますが、今のところ確認出来る一番古い例が63年だという事です。
1963年というと、日本国内でのエレキ需要はまだ大きくなく、それにカワイのギター部門は(少なくとも70年代にフェルナンデスの製造を開始する以前は)徹底して輸出志向なメーカーですから、(一応、日本国内向けのカタログも製作されたものの)カワイは輸出目的でエレキの販売を始めたのだと考えて間違いないと思います。エレキの輸出は、輸出先の国のバイヤーを経由して行うものであり、日本製安物エレキの販売をアメリカ国内で行うのは、以前からハーモニーやシルバートーン等の安物エレキの販売を行っていた業者なのであり、そのバイヤー達からのリクエストで、彼らが扱い馴れてるハーモニー等と良く似た製品を製造した(つまり米国製安物エレキの更に安ぽいコピーの製造を請け負う事で、日本のエレキ産業は本格化した)。PUがデュアルモンドに似てるのも、そういう事情があったからだと考えられます。

テスコによるカワイ向けOEM生産は1年足らずで終了してしまいましたので、このPUを載せたカワイ・ブランドのエレキの現存数は非常に少ないと思います(私はそれの現物を目にした事がありません)。一方テスコの方では、63年頃に出荷した小型フルアコ(EPシリーズ)に、このPUを載せた製品が少しだけあるものの、基本的には、テスコ・ブランドの製品にこのPUを用いる事はなかったと思われます。

というわけで、63年にごく短期間だけ用いられ、その後姿を消してしまったのが、このデュアルモンド風PUなのですが、どういうわけか、テスコがカワイに吸収合併された67年以降になって、モズライト・フェイクのV-2(のaltバージョン)等に、再び用いられるようになります。
これはどういう事かというと、たぶん63年時点での余剰在庫をカワイかテスコのどちらかが保有していて(たぶんカワイ側なような気がします)、倉庫の整理・余り物の一掃という目的も兼ね、68年頃、主に廉価価格帯の製品用としてテキトーに使い回したのではないかと。

テスコ類は別名「ごみギター」とも呼ばれるだけあって、保存状態の良くない物が多いものです。錆だらけホコリだらけなうえに、ペグ破損、ロッド折れ、ブリッジ紛失等々があって当たり前。そのわりにはPUはちゃんと生きてるものですから、テスコのPUというのは、けっこう丈夫に作られてるように思えます。なんですけど、このデュアルモンド風PUに関しては、内部断線等の不具合で使用不可になってる個体が多いです。
私は今までにこのPUを5個入手しましたが、大丈夫だったのは2個のみ。事故率40%はテスコとしてはかなりの悪成績です。もっともサンプル数が5個だけでは統計的な事を云々出来ませんけど(たまたま運が悪かっただけなのかも知れない)、1964年に軍艦PU(初期型TG-64等に載せられてるグレーのPU)が登場した時は、その年のカタログで
「(この新型PUは)プラスチック整形により、コイル断線の心配はなく」
という事を謳ってるのも、やはりそれ以前のPUはコイル断線の心配が多かったのではなかろうかという推測をむしろ裏書きしてるのではなかろうか?それでその軍艦PUもまた事故率の高い製品ですから、なかなかここら辺はアレな感じです。ゴールド・フォイルPUは丈夫ですけどね。


不思議なスロットが入れられたバック・プレートですが、こうする事でフラット・トップのギターだけでなく、ラウンド・トップのギターにもマウント出来るようにするという意図があったのかも知れません。


各部寸法です。測定の精度は+/- 1mm程度だと思ってください。またカバーの変形などがある場合には個体差も大きくなるものです。
採寸したのは「リプレイス目的でピックガードやエスカッションを自作する際の便利のため」が主目的ですので、とくに外寸に対しては、誤差が出たとしても「どちらかというと大きめ」な方に転ぶような数値の取り方をしております。

ちなみにテスコの輸入を行っていた海外の会社とブランド名は、

1961 W.M.I. company@Kingston
1962 Bugeleisen & Jacobson@Kent
1963 Dallas-Arbiter@Arbiter
1964 W.M.I. company@Teisco Del Ray
1966 Rose-Morris@Top Twenty その他KayとかAudition
1967 Bennett Brothers@……ブランド名は不詳

他にもまだまだあるとは思います。ちなみにカワイがテスコを買収したのは1967年。

2007/02/09
(改)2009/06/06



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