Teiscoの1950年代のラップ・スチール、EG-RのPUです。Model-Sという機種にも用いられてます。外観の特徴から肋骨ピックアップ、Rib PUと略称したいと思います。 以前はこれをSoap Case PUと呼ぼうかと思ってたのですが、Soap Barという有名なのが既にあるし、骸骨=Skullと言えばShure 55SHの事だし。しかし今のところ"Rib"がマイク類の愛称として用いられてる例は無いようなので、これにするのが順当かと。
Rib PUの中身はこうなってます。写真の左側がネック。ネック側に板状の大きなマグネットが置かれてます。このマグネットはPUカバーでは覆いきれないので、そのための専用のカバーが用いられます。 ちなみに、EH-100のPUをフルアコに載せたのがいわゆるチャーリー・クリスチャンPU。
ネック側から見たPU内部。
ポールピースとマグネットは、ボディにしっかり固定されてます。しかしコイル・ボビンはポールピース・バーに乗せられてるだけで、固定されてません。簡単に抜き取る事が出来ます。
先述の通り、ポールピースとマグネットはしっかり固定され、ボディと一体化してます。しかしコイル・ボビンは固定されてない(樹脂製カバーで押さえ付けられてるだけ)。そのためこのPUは、メカニカル・ノイズを非常に拾いやすいです。演奏中に指がボディに当たる音とか、スライド・バーが弦を擦る(こする)音に対して過敏すぎる。そのため、防振対策されてる普通のラップ・スチールと同じ感覚では扱えない、少々使いづらいPUです。
マグネットには、三菱のマークとMK-Iという型番がプリントされたシールが貼られてます。
コイル・ボビンの材質は、ワックスを浸透させたかコーティングしたかのような厚紙です。厚手のパラフィン紙のようなもの、というよりかは日本で昔から傘などに用いられてた渋紙みたいなものかも知れない、そんなような素材です。 フェンダーやギブソンのPU(の、とくに初期のもの)のボビンはファイバーボードでしたから、紙製と似たようなものだ(と言えなくもない)。まあファイバーボードの方が厚いので丈夫ですが、厚い分、経年による変形・収縮が大きく現れやすく、その結果コイルが断線したりする。それに比べテスコの紙製ボビンは、2014年現在で製造されてから約60年ほど経ってますが、断線トラブルの発生例は少ないと思う。薄い紙製なため、かえって収縮や湾曲を起こしにくいのだと思われます(尤も、このPUの現存数自体が少ないですから、統計的にどうとは言えないのですが)。
1950年代のテスコは、まだ大量生産体制にはなってません。家内制手工業的な作業で、一つ一つ紙を切り抜いて貼り合わせ、こんな手作り感満載のものを作ってたわけですね。
一方、PUカバーは合成樹脂製です。現在の私たちにとってプラスチック製品なんて珍しいものではありませんが、1950年代の日本ではどうだったか?初期のテスコやグヤのプラスチック部品といったらコントロール・ノブとペグのツマミくらいのもので、PUカバーは金属製でした(このPUとかも、見た目はプラスチック風ですが、この黒いカバーも金属製)。 しかし結局、60年代までの日本製エレキで重用されたのは金属パーツの方だった。なにしろピックガードが金属製。そして(とくにテスコは)PUカバーの多くも金属製。ノイズ対策的にはその方が良い面もある。60年代末になるとセルロイド製のピックガードが用いられ始めるが、その時期の(本物の)セルロイドは経年による変形・収縮の度合が大きく、現在では不具合が発生してる個体も多い。紙や金属を使ってた方がずっと無難だったようです。
肋骨状のカバーの下側にはパーロイド柄のシートが置かれ、中身を隠してます。
半透明のパーロイド柄シート(おそらくセルロイド)の裏側に金色のコーティングをしてるようです。金属製ではありませんから、このシートにも防磁効果はありません。
カバーの底面にはマグネット板やリード線を通すための切り欠きが設けられてます。リード線用の切り欠きは、EG-R用としては片側に一つで充分ですが、それが両側にあるという事は、EG-Rとは異なるパーツ配置の製品にも対応できるよう配慮されていたのでしょう。
それにしても何故、こんな凝った形状のカバーを採用したのでしょうか。各弦は、あばら骨の隙間(スロット)の中を通ります。
そのため、このPUの真上ではピッキングできません。ピッキング・ポジションは、ネック寄りの位置に限定されます。 2014/12/09 |