(お別れ録音)Teisco WG-2Lの新旧2台まとめて、2012年6月

2012/07/03
(改)2017/10/14


 テスコのWGシリーズが発売開始されたのは1963年。68年版のカタログにも掲載されてます。その後の事は分かりませんが、少なくとも63〜68年の6年間は販売されたわけで、テスコの中では最もロングセラーな製品シリーズの一つです。

 もっとも、ロングセラーといっても、たったの6年間ですけどね。

・1963年とは、日本での輸出用安物エレキの大量生産が本格化し始めた年。
・1965年がエレキ・ブームのピーク。
・1966年にはビートルズ来日。
・1967年、テスコ倒産。
・1969年にはグヤトーンその他数社が連鎖的に倒産。

 この状況展開の早さが、実に泡沫的。だから60年代エレキ・ブームとは、ごく短期間の、根の浅い流行にすぎなかったのであって、日本の社会や文化に与えた影響は限定的、つまり「社会現象」と呼ぶに値するほどの拡がりも重要性も無かったのではなかろうか?2012年現在で言うなら、例えばAKB48を芸能ジャーナリズムは国民的アイドル等と称する、そういったようなのと概ね同じ事ですね。

*みたいな話しはさておいて*

 それなりにロングセラーなWGシリーズですから、6年間のうちにいろいろと仕様変更されました。↑の画像の、上段は発売開始当初のもの。下段は、この製品の最終形態で、66年以降の仕様。PU/トレモロ・ユニット/ヘッド形状がそれぞれ異なり、これはもはや別のモデルと言っていいくらいの変貌ぶりですが、そもそもテスコのエレキなんてものは、ちゃんと製品開発して設計された「楽器」なのではなく、エレキっぽい形に切り抜いたドブ板に金属部品をゴテゴテ盛り付けたガラクタに過ぎないのだから、パーツ類はその都度、手元にある調達容易なものをポイポイくっつけるだけで、そのためビミョーなバージョン違いが無闇と生み出されたりもする訳ですけれど、ともかく今回では、そのWG-2Lの新旧2台をひとまとめにして「お別れ録音」してみました。

■L ch,が初期型/Rが後期型。
■アンプはYAMAHA YTA-25/マイクはAUDIX D1
■エフェクターなし/クリーン・トーン。

■PUポジションは
 1,2 verse3,4 verse5,6 verse
初期型FMixR
後期型MixFF

■ベースはYAMAHA BB-1200(フレットレス改)
■プリアンプART DUAL MPを介して卓直
■DUAL MPの設定はInput/Outputの両方とも11時 High Z Inputを使用

■ドラムの、スネアはKORG WAVEDRUM ORIENTAL
■その他のパーツは打ち込み。

■2012年6月4,5,8,9,17,18日録音

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 今回のお題はジョン・コルトレーンのGiant Steps。およそテスコみたいなポンコツ・エレキで弾くべき題材でもなかろうけど、こういう「いわゆるジャズの難曲」の場合、その複雑(とされている)コード進行をぱらぱらトレースするに終始しがちなのが、このテの曲の演奏を退屈にしてしまう原因の一つなのだから、わざと弾き辛い楽器を用いる事でパラパラ弾きを抑制するのは、むしろ理に叶ってる、とは言えないまでも、それなりに有意義なのではなかろうかさあどうであろうか?ともかく今回のネタはこれ。

 それと、弾き辛いエレキというのは、エレキならではの定番フレーズや、楽器の特性を活かした定番リックの類が弾き辛い。だから、そういったのを捨てフレーズとしてちょろまかすのもやり辛いわけで、それが逆に、演奏を粗雑にさせない方向に作用してくれる、かも知れない。
 計画的に、予め弾くべき内容を決め付けておかないと、針金フレットのエレキなんて弾けたものではないのです。

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 さてそれで、実際弾いてみたところはどうだったかと言うと、チェンジをトレースするだけのプレイ、つまり、アルペジオの連続だとか、コード・スケールをぞろぞろ弾き並べるだけとかは、たしかにしてないのだけど、ノートの選択が概ね全て、チェンジに対してインサイドに収まっている。だったら結局これも、チェンジ・トレースしたのと同じではないか?なんかくっだらないものを弾いてしまったよ。

・フレーズは、チェンジからアウトしてナンボのものである

と、もちろんそうは言い切れないけれど、ハーモニーの規定と、それに対するフレーズの運動性(必然性)とには、双方で折り合いの付かない場面が常に多々生じるのは必然で、だからその衝突をどう処理するか(あるいはむしろ、どうやってわざと衝突させるか)という点にこそ、奏者の手腕なり見識なりがよく現れる。少なくともジャズ系音楽での、アドリブだとかインプロビゼーションだとかと呼ばれてる形態での演奏の場合では、そうなのである。
 だから、常時インサイドに留まってる演奏なんてものは、例えていえば予め敷設されたレールの上を補助輪付き自転車に乗って行ったり来たりしてるだけのようなものであって、小さな子供ならともかく、いい大人がそれを得意げにやってるのはバカ丸出し。

 ジャズのハーモニーは、フォーマット(楽式、楽曲の枠組み)を提供するためのものである、と言い切るのもやはり正しくはないが、優先されるべきはフレーズ(メロディ・ライン)である、というのは間違いない。フォーマットは遵守されるべきであるが、しかしフレーズはそれに対して優越しようとし、越権しようとする、そのせめぎ合いが無いのなら、ジャズ的な演奏を行う意味も理由も無いのです。

 ともあれ、今回の私のGiant Stepsのフレーズは概ねインサイド。こんなものは音ゴミであるけれど、この曲は今後一年くらい掛けてじっくりナニしてく予定なので、初回はこの程度でも取りあえずオッケーかなとは思います。

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 今回の録音は6ヴァースですが、最後の5〜6ヴァースのドミナント・コードを、全てオグメントにしてあります。その理由は;

・属増七を生じさせるスケールは何種類かありましょうけれど、代表的なのはホール・トーン・スケール(以下HTS)。
・Giant Stepsに使われている属七は、D7/Bb7/F#7の3つだけ。

 Giant Stepsはコード進行がものすごく複雑とかいわれてますけど、属七は、つまりケーデンスは3通りしかない。そこで、この3つの属七を増5度化したもの、つまりD+7/Bb+7/F#+7に対応するHTSを書き出してみると、

スケールとしては開始音が異なる3種類だけど、音列としては、これらは同一である。
 また、D+7/Bb+7/F#+7のそれぞれと増4度間隔にある、いわゆる代理コード(裏コード)、即ちG#+7/E+7/C+7も、同じ音列上のコードである。そして、以上の6つのコードが、このHTS上に作られる属増七和音の全てである。
 Giant Stepsは一見、長3度間隔の突然転調を繰り返す曲のようであるけど、HTSを仮設してみると、(突然転調という)不連続性を統一的に解釈できる可能性が開けてくるのではなかろうか?

B - D7 - G - Bb7 - Eb - F#7 という12拍=3小節のシーケンスが基本ユニットとしてあって、これを5回繰り返して15小節。そこからいくつかのコードを適度に間引いて、II-7を加えてケーデンス的な「見せかけ」を作り、最後にターン・オーバー用の1小節を加えて、ジャズ・チューンとしての一般的な体裁を整えたのがGiant Stepsという曲、なのだと解する事も出来る。

ちなみに、
V+9 #11(ドミナント・オーグジュアリ・ナインス・シャープ11th)
というコードについて考えてみると、

これはつまり、3つともHTSの総和音ですね。だから構成音は共通で、ボイシングが(というかバスのみが)異なる。当然、裏コードのルートG#/E+/Cで作っても、同じ構成音になります。
・HTSは、機能和声論上で言うところの、いわゆるアボイド・ノートを持ってない。
・HTSで総和音を叩けば、この音列内に生じうる属和音の全ての可能性は充たされてしまう。
 しかし、3全音を3組持つこの和音が、属機能を持っているのだろうか?そもそも、半音程を持たず、完全4度/5度も持たないHTSを、調性の概念で云々できるのだろうか?

 とまあ、こういったあれこれを演奏にどう活かすのか(あるいは活かせるのか?)は、まだよく分からない。今回は取りあえず、部分的に増5化してみたまでの事です。

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 ドラムのスネアは、KORG WAVEDRUM ORIENTALをブラシで叩いてます。ブラシで叩けばブラシの音になるのがWAVEDRUMの素晴らしいところですが、ヘッド径が10インチと小さいので、いわゆる
「お祭り屋台の焼きそば屋さんが鉄板の上でコテを回す的ブラシ奏法」
は、ちょっとやり辛いですね。

 それと、デフォルトで付けられてるヘッドはコーテッドではなく、クリアでもなく、天然皮風の厚手の和紙みたいな、ともかく不思議なマテリアル。多少はザラザラしてるので、ブラシでこする音は一応鳴るけれど、やはりコーテッドの音とは違うわけで、その点もちょっと使い辛い。
 かといってヘッドをコーテッドに交換してしまうと、素手で叩く時にどうであろうか?ここら辺の問題は悩ましい。WAVEDRUMは2台欲しいです。


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