(お別れ録音)
Guyatone HG-26A & Teisco EG-SW、2012年6月

2012/09/07
(改)2017/10/17


 Guyatone HG-26Aは1950年代、Teisco EG-SWは60年代の製品。両方とも廉価(初級者向け)のショート・スケール・ラップ・スチール。2本まとめてのサンプル・トラックです。

■アンプはYAMAHA YTA-25/マイクはAUDIX D1
■R.chがGuya 26A、L.chがTeisco SW。

■2nd verseのGuya 26A(オブリガート・パート)にはコンプ、BOSS CS-2を掛けてます。設定は
ATTACKSUSTAIN
ゼロほぼフル

■Teisco SWは、最終verse(オブリガート・パート)のみ、Toneを絞ってます。

■伴奏のギターは加納木魂
■収音マイクはSENNHEISER MD441U
■ハイ上げはなしで、S←→M SWは、S+1。
■サウンドホールのほぼ正面、ややネック側から、距離15cm。
■プリ・アンプはMindPrint AN/DI Pro

■後半のパーカッション(トライアングル、マラカス、ギロ)の収音もSENNHEISER MD441U
■設定はギターと同じ。

■2012年6月24,29,30日/7月15日録音

---------------------

今回のお題は、

作詞;江間章子
作曲;團伊玖磨
「花の街」(1947年)

作詞;岩谷時子
作曲;野田暉行
「空がこんなに青いとは」(1970年)

この2曲のメドレーでした。「花の街」はKey= E Major。インタールードで転調して、「空がこんなに」はKey= A Major。楽器のチューニングは以下の通り。

 両方とも6弦ラップとしては些か変則ですが、グヤは8弦C6の変形。テスコの方は、上4本だけならC#mで、6本全部鳴らすとE7になるというような組合せ。ただ、両方とも低音側2本はほとんど使ってないので、変則にした意味はあまり無かったです。

---------------------

 筆者はラップ・スチール初級者で(低級者ともいう)、前回の録音の出来もなんか色々ひどすぎだから、ともかくシンプルなメロディを丁寧に弾く事に専心するべく選んだのが、この2曲。

 尤も「シンプルなメロディの曲」というのもこの世にゴマンとあるから、何を選んでも良いのがかえって悩ましいのだけど、「花の街」は出だしの音型がアルペジオに近く、スチール・ギターで弾く素材として面白いかも知れないから、これを採用。
 しかし「手放す機材の音の記録」という主旨からすると、出来るだけ楽器の全音域を使い切りたいとか、設定違いの音も残したいとかの要求もあって、となると「花の街」の一曲だけでは尺が短すぎるので「空がこんなに青いとは」と組み合わせたメドレーにしました。この2曲が作られた由来的な事柄については、下記リンク先を参照して下さい。

花の街
空がこんなに青いとは

一方は、太平洋戦争終結直後の、焼け跡の廃墟の上に幻視された都市風景を歌う歌。
もう一方は、四半世紀に及んだ戦後復興と、いわゆる高度成長期が終わりつつある時期に作られた歌。

 狂的経験を省みて歌う時、目の前にある実体よりも、そこから「失われたもの」の方を題材に選んでるという点で、この2曲には共通性がある、という私的先入観があるせいか、歌詞のないインストものとしても、この2曲はメドレーで結び合わされるに相応しいように、私には思われるのでした。

---------------------

 「空がこんなに」の10小節目(♪本当に青い空)で一旦ブレイクするのは、2011年に放映されたTVアニメ「日常」でこの曲が用いられた際のアレンジに倣ったものです。
「日常」第23話のED -Youtube検索
 実はこの番組で久しぶりに「空がこんなに」を聴いて、改めて良い曲だなと思ったのも、今回これを取り上げた理由の一つなのでもありました。
 中高の合唱団がコンクール用に歌う系の「空がこんなに」を聴くのは、私的にとても不快。だけどアニメの声優さんのだと、すごく良いと感じる。アニメには廃れた曲を蘇生させる効果もあるかな?こういう例は他にも色々あるのでしょう。

---------------------

同音連打の難しさについて;

 楽器でメロディーを弾く際に一番難しいテクニックは何か?まあ色々あるでしょうけど、同音連打、つまり同じ音を2回以上続けて奏する事は、最も難しい事の一つである、とは言えないにしても、奏者にとっての「鬼門」と呼ぶべきものには違いないと私には思われます。とりあえず同音連打する事自体に難しい要素はないけれど、同音連打は往々にして「すごくダサい、イモ丸出しな演奏」になりやすいんですね。なぜなら、

  • まず、リズム感の悪さ、発音タイミングの乱れが、一番現れやすいのが同音連打。
  • また同音連打は、強弱あるいは長短の配分、つまりアーティキュレーションの扱い方を誤った場合、非常にダサくなる。
  • 同音連打は、これらの要件に不具合があった場合、それがバレやすい点が厄介である。

 つまり同音連打は「出来て当たり前」の事であって、無難にこなせたとしても特段ほめられるようなものではなく、しかしこれをしくじると二流音楽家の烙印を押されてしまう、という点で難しい、というよりつまり奏者にとっての「鬼門」と呼ぶのが相応しい案件なわけです。まあ「単純な事ほど何かと厄介」というのは、芸能全般に共通の基本原則ではありますね。ともかくだから楽器でメロディーを弾く場合、同音連打を避ける事が出来るなら、出来るだけそうするべきなのです。ただ「同音連打」と一口にいっても、

  • 関心の対象がリズム形にあるもの(運命交響曲)とか、
  • 伴奏なのか動機なのか判然としないもの(ワルドシュテイン)とか、
  • 歌詞ありの曲としては同音連打型だが、歌詞なしのインストものとしては、一種のペダル・ポイントであるとの解釈も可能なもの(One Note Samba)とか、
  • あとはブルース等でのお約束フレーズ(Hound Dog Taylor)とか、
  • 同音連打する事それ自体が快感みたいなもの(What is Hip)、
とかとか、つまり同音連打にも色々なタイプがあって、これらの全てが常に「メロディとしての同音連打」であるとは限らないけど、しかし「同音連打型メロディーの曲」というのも沢山あるわけで、例えば「空がこんなに」は出だし部分その他に、同音連打が多用されてます。そして、自分にとって同音連打が頻繁に出てくる「空がこんなに」のメロディーを、まだ上手く扱えないラップ・スチールで弾くのは気の重い課題でした。

 弾き馴れた普通のギターでなら、ミュート、ベンド、異弦同音、ダブルストップ等の小技を絡める事で、単純な同音連打になるのを回避するためのテクニックはある程度自在に操れるけど、ラップ・スチールだと、それがままならない(私は低級者ですから)。しかも、

  • 古い時代のエレキのPUはたいてい、防振対策はがまるで施されてないから、弦振動以外の無駄な振動・ノイズも、どんどん出力されてしまう。
  • そして廉価なラップ・スチールというのはボディ材が薄くて軽量だから、そういうノイズが発生しやすい。

 つまり今回の録音に使用したラップ・スチールは2本とも、トーン・バーを弦に乗せる時、離す時に生じるノイズや、トーン・バーが巻弦をこする音とか、右手のピッキングをミスった時の変な音とかの全てを、余さずアンプリファイしてくれる。良く言えば敏感にして繊細、ありていに言えばたいそう弾きづらいエレキなのであって、そんな楽器でラップ低級者の私が同音連打の多用されるメロディーを弾くのは、なかなか辛いものがございます。だったら「空がこんなに」は止しにして別の曲を選べば良さそうなものだけど、実はこの曲を録音すると決めて採譜を始めてから、「空がこんなに」には同音連打が多いという事に気が付いたんですね。迂闊というかなんというか、少しアホでないかと思います。

 尤も今回は曲調的にリバーブは多めな方が良かろうと思いたっぷり掛けてます。その分、低品質ラップを低級ラップ奏者が弾いてる痛々しさも、多少は緩和してるかも知れません。

*)ちなみに、私はラップ・スチールを弾く時もフィンガー・ピッキングです。ピックは用いません。

*)ちなみに(その2)、「花の街」の冒頭にも一個所同音連打がありますが、そこは同音連打を回避するようにメロディーを作り替えても原曲のイメージを大きくは損なわないと思われたので、今回はそのように演奏してます。

---------------------

 Teisco EG-SWにはToneツマミが付いてますが、Guya HG-26AにはVol.しかありません。そのためHG-26Aには途中一個所、トーン調整用にコンプレッサー(BOSS CS-2)を掛けてます。
 よく「コンプは音がこもる」とか言われるじゃないですか。だからコンプを通せば、トーンを絞ったのと似た音になってくれるかなと思って。あまり効果なかったようですが。

---------------------

 ガット・ギター(加納木魂)の収音はSENNHEISER MD441Uですが、やや近接(15cm)で立ててみたところ、リボン・マイクのRCA BK-5Bに似た音になったと思います。「MD441はリボン・マイクに似てる」という通説は、この音に関しては良く当てはまりますね。
 今回はベース無しの編成のため、ギターでボトムを稼ぎたくて近接にしたのだけど、曲調に対しての合う合わないで言うと、イマイチだったと思う。もうちょっと「ふわっと」した、遠くの方で鳴ってる音の方が良かったと思います。


【宅録等の作例を陳列するコーナー】のトップに戻る

【牛込パンのHOME】に戻る

inserted by FC2 system